【判例速報】大阪地裁・警察官による捜査関係事項照会書の濫用と個人情報漏洩/東京地裁・職務発明の相当の対価ほか計4件(2026年9月10日)
裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のものは4件です(インターネット関連分野に直接該当するものは0件。ただし1件は捜査関係事項照会書を用いた個人情報の不正取得・漏洩の事案であり、個人情報・情報開示実務に参照価値があります)。
【注記】裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、「昨日から本日に公開された分」を厳密に特定することはできません。そのため、裁判年月日ベースで直近の新着一覧(下級裁判所(速報)・新着統合・知的財産裁判例集の3本)を確認し、当サイトの既報分との重複を個別に除外しています。
1.大阪地方裁判所第7刑事部 令和8年6月26日判決(令和7(わ)4515・虚偽有印公文書作成・同行使、公務員職権濫用、地方公務員法違反)
事案の概要
大阪府の警察署に所属する警察官である被告人が、捜査関係事項照会書の作成権限を用い、犯罪捜査の必要がないのに虚偽の照会書を作成・送付した事案です。
- 第1の犯行:令和5年12月から令和6年1月にかけて、元交際相手の個人情報(戸籍謄本等)を得るため、区役所等に5通の虚偽照会書を送付して回答を求めた
- 第2の犯行:令和7年2月、行政書士の依頼で特定人物の銀行口座残高等の情報を得るため、銀行等に7通の虚偽照会書を送付して回答を求めた
- 第3の犯行:照会により得た秘密(口座残高情報)を当該行政書士に漏洩した
判断の要旨
懲役3年、執行猶予5年。前科がなく重大な実害が生じていないこと、被告人が犯行を認め悔い改める態度を示していることを考慮する一方、長期にわたり不正を繰り返した経緯と職権濫用の悪質性に言及し、直ちに懲役刑の実刑を科さなければならない事案とはいえないとして執行猶予を相当としました。
実務上のポイント
捜査関係事項照会の権限が、犯罪捜査の必要なく私的目的や第三者(行政書士)の依頼のために用いられた場合に、虚偽有印公文書作成・同行使罪、公務員職権濫用罪および地方公務員法上の守秘義務違反が成立することを示した事例です。
照会を受ける側(自治体・金融機関・通信事業者等)が照会の必要性・相当性をどこまで確認すべきかを検討する際の素材となります。発信者情報開示や契約者情報の任意開示請求に接するインターネット関連業務においても、照会制度の限界を示す判断として参照価値があります。
2.東京地方裁判所 令和8年8月19日判決(令和7(ワ)70203・職務発明対価相当請求事件/権利種別:特許権)
事案の概要
被告(株式会社埼玉村田製作所)の元従業員である原告が、6件の特許および2件の特許出願に係る発明は自らの職務発明であると主張し、被告の勤務規則に基づく実績報奨金または特許法35条3項・5項に基づく相当の対価として合計600万円および遅延損害金の支払を求めた事案です。
判断の要旨
請求をいずれも棄却。
- 実施の有無:被告製品の製造方法は、特許請求項1の「置換めっき処理によって形成された第1のめっき電極層」の構成要件を充足せず、電解めっきに用いられるめっき液は明細書の置換めっき工程で使用される硫酸銅液とは異なるとして、被告は当該特許発明を実施していないと判断
- 譲渡対価:平成29年1月に村田製作所への一括譲渡が行われ、譲渡対価は免除ロイヤリティ法により43億1000万円と評価されたが、本件各特許権は実施特許として列挙されておらず、多数の知的財産権のうち1つとして厳密な検討なく譲渡されたものであって、譲渡対価の算定に対する特段の寄与は認められないとして、被告が本件各特許権の譲渡対価を得たとは評価できないと判断
- 相当の対価:「その発明により使用者等が受けるべき利益」を得たことを示す具体的事情がないとして、相当の対価の請求権を有しないと判断
- アイデアに係る対価:本件規程は特許・実用新案登録の対象となる完成された技術的思想の創作を支給対象としており、発明に該当しないアイデアは含まない。特許法35条3項も発明の完成を前提としているとして、請求権を否定
実務上のポイント
職務発明の相当の利益(対価)請求において、当該特許が自社実施されていないこと、および特許権の一括譲渡において当該特許が対価算定に寄与していないことが認定されると、「使用者等が受けるべき利益」が否定され請求が全部棄却され得ることを示しています。
ポートフォリオ一括譲渡の対価配分の立証が主要な争点となる点、および「発明に至らないアイデア」が報奨規程・特許法35条の対象外とされた点が、実務上の要注意事項です。
3.さいたま地方裁判所第5刑事部 令和8年7月2日判決(令和8(わ)499・公職選挙法違反)
事案の概要
公職の候補者であった被告人が、選挙運動をしたことの報酬として選挙運動者に現金を供与し、または供与の申込みをした事案です。令和5年4月の長瀞町議会議員一般選挙では8名に計43万円、令和7年6月の長瀞町長選挙では6名に計36万円を供与等しました。街頭演説会場でのビラ頒布や投票依頼等の選挙運動に従事した者に対し、報酬名目で現金を支給したものです。
判断の要旨
懲役2年、この裁判が確定した日から5年間執行猶予。民主主義の根幹である選挙の公正を害した程度は小さくないとし、違法性を認識しながら安易に各犯行に及んだと認定。前科がなく反省を示している点を考慮し、罰金ではなく自由刑を選択したうえで執行猶予を付しました。
※公民権停止(公職選挙法252条)に関する判示は、判決文上明示的な記載を確認できませんでした(未確認)。
実務上のポイント
選挙運動者に対する報酬供与(公職選挙法221条1項各号)につき、2つの選挙にまたがって反復して供与が行われた事案で、罰金ではなく懲役刑(執行猶予付き)が選択された量刑事例です。
4.さいたま地方裁判所第1刑事部 令和8年7月22日判決(令和7(わ)1470・殺人)
事案の概要
被告人が、令和7年4月21日、埼玉県戸田市の自宅浴槽において、生後4か月の実子を溺死させた事案です。
判断の要旨
懲役3年、未決勾留日数150日を刑に算入、執行猶予5年。責任能力については、重度のうつ病が犯行動機に強く影響した点に争いはなく、心神喪失か心神耗弱かが争点となりました。裁判所は、犯行前に児童相談所と適切に会話できていたこと、犯行中に被害者から目を背ける葛藤が認められること、犯行を詳細に記憶していること、犯行後に証拠隠滅行動をとったことから、正常な精神作用も残っていたとして心神耗弱と認定しました。
量刑については、保護養育すべき立場で生命を奪った重大性を認めつつ、重度のうつ病の影響下での衝動的な犯行であること、周囲の十分な支援が欠けていたことを考慮し、社会内での更生の機会を与える余地があるとして、執行猶予に付し得る上限である懲役3年・執行猶予5年を相当としました。
実務上のポイント
心神耗弱の認定要素として、犯行前後の第三者との応答の適切さ、犯行中の葛藤の存在、記憶の保持状況、犯行後の行動が具体的に挙げられています。刑法39条2項の適用事案において、執行猶予が可能な上限の量刑が選択された事例として、精神障害が背景にある事件の弁護活動で参照価値があります。
精査状況について
- 上記4件はいずれも裁判例詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」「参照法条」欄が空欄であり、本記事の要旨は判決文PDF(courts.go.jp掲載)の記載に拠っています。原典は確認済みです。
- 下級裁判所(速報)一覧は先頭30件のみが静的に取得可能であり、31件目以降は本日の確認範囲に含まれていません。
- 裁判年月日が直近2週間以内(8月27日以降)の新着一覧掲載分は、いずれも当サイトの既報分でした。上記4件は裁判年月日は6月~8月ですが、当サイトで未報告のため取り上げています。
出典
本記事は、裁判所ウェブサイト(courts.go.jp)掲載の以下の公式ページに基づいています。

