【判例速報】宮崎地裁・町議への懲罰と議会だよりの名誉毀損(国家賠償)(2026年9月3日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のものは1件です(インターネット関連分野に直接該当するものは0件。ただし、公的広報媒体による事実摘示型の名誉毀損の成否に関する判断であり、ネット上の名誉毀損実務にも参照価値があります)。

【注記】裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、「昨日から本日に公開された分」を厳密に特定することはできません。そのため、裁判年月日ベースで直近の新着一覧(下級裁判所(速報)・新着統合・知的財産裁判例集の3本)を確認し、当サイトの既報分との重複を個別に除外しています。本件は裁判年月日が令和8年7月1日ですが、新着一覧に新たに掲載されたもので、当サイトでは未報告です。

1.宮崎地方裁判所 民事第2部 令和8年7月1日判決(令和6(ワ)217・損害賠償請求事件)

事案の概要

町議会議員である原告が、町(被告)に対し、次の4つの行為が違法な公権力の行使に当たるとして、国家賠償法1条1項に基づき176万円の損害賠償を求めた事案です。原告は、常任委員会による高レベル放射性廃棄物最終処分施設の視察研修に参加した議員の行動と、その説明が不足していることを一般質問で批判し、これが懲罰の対象とされました。

  • 行為1:議長による一般質問(最終処分施設に関するもの)の不許可
  • 行為2:陳謝の懲罰
  • 行為3:出席停止1日の懲罰
  • 行為4:行為2・3の経緯を記載した「議会だより」の発行による名誉毀損

判断の要旨

一部認容(11万円)。議会の自律性と議員の権利侵害との均衡を踏まえ、行為ごとに個別具体的に違法性が判断されました。

  • 行為1(一般質問の不許可):一般質問は議員が執行機関に対し事実又は所信を質す権限であるが、これを不許可としても議員の中核的権利が制約されているとはいい難いとして、違法性を否定。
  • 行為2・3(陳謝・出席停止の懲罰):懲罰については議会に一定の裁量が認められるものの、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した場合には違法となるとしたうえで、原告の発言は一連の流れの中での執行機関に対する提言であって地方自治法132条の「無礼の言葉」に当たらず、陳謝に値するものとはいえないと判断。懲罰特別委員会において懲罰の要件該当性がほとんど審査されていない点も指摘され、いずれも違法とされました。
  • 行為4(議会だよりの記事):議会広報編集特別委員会には掲載記事の表現内容について一定の裁量があるとしつつ、本件記事は、原告が行政一般の質疑をしなかった、陳謝を拒否したという虚偽の事実を摘示するものであり、一般住民の通常の注意と読み方を基準として原告の社会的評価を低下させるとして、裁量権の範囲を逸脱した名誉毀損に当たると判断。

損害は、慰謝料10万円(行為2につき2万円、行為3につき5万円、行為4につき3万円)に弁護士費用1万円を加えた11万円とされ、令和6年1月19日から年3%の遅延損害金が付されています。訴訟費用は16分し、その15を原告の負担としています。適用法条は国家賠償法1条1項、地方自治法132条・135条ほかです。

実務上のポイント

  • 公的機関が発行する広報媒体の記事について、編集裁量を認めつつも、虚偽の事実の摘示があれば裁量逸脱として名誉毀損が成立し得ることを示した事例です。自治体・団体の公式サイトやSNSでの発信が問題となる事案(記事の削除・訂正請求を含む)でも判断枠組みの参照価値があります。
  • 名誉毀損の成否について、一般住民の「通常の注意と読み方」を基準として摘示事実を確定している点は、ネット上の投稿・記事の意味内容の確定に関する一般的な判断枠組みと共通します。
  • 他方、議会の議事運営(一般質問の不許可)については議会の自律性が広く認められており、懲罰処分の適法性とは切り分けて判断されています。
  • 認容額は慰謝料10万円と低額にとどまっており、地方議会内部の紛争を国家賠償請求で争う場合の回収見込みの目安になります。

出典:裁判例詳細判決文PDF

精査状況について

  • 上記1件は、裁判例詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」「参照法条」欄がいずれも空欄であり、本記事の要旨は判決文PDFの記載に拠っています。原典(courts.go.jp掲載のPDF)は確認済みです。
  • 本日確認した3本の新着一覧のうち、上記以外の掲載事件は、いずれも当サイトの過去の速報で既に報告済みであることを確認しました(事件番号・裁判年月日・裁判例IDにより照合)。
  • 下級裁判所(速報)一覧は先頭30件のみが静的に取得可能であり、31件目以降は本日の確認範囲に含まれていません。

出典

本記事は、裁判所ウェブサイト(courts.go.jp)掲載の以下の公式ページに基づいています。

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。