自筆証書遺言は法務局に預けられる?遺言書保管制度の使い方は?弁護士が分かりやすく解説します

Q 父が「遺言書は自分で書く」と言っています。ただ、しまったまま忘れられたり、後で書き換えられたりしないか心配です。自分で書いた遺言書を法務局で預かってもらえる制度があると聞きましたが、どのような制度で、どう使えばよいのでしょうか。

A 「自筆証書遺言書保管制度」という制度があります。ご本人が書いた遺言書(自筆証書遺言)を法務局(遺言書保管所)が原本と画像データで預かる制度で、令和2年7月10日から始まりました(法務局における遺言書の保管等に関する法律・平成30年法律第73号)。紛失や書き換えのおそれを減らせるうえ、亡くなった後に家庭裁判所の「検認」を受ける必要がなくなります(同法11条)。手数料は遺言書1通につき3,900円です。
ただし、預かってもらえるのは決められた様式で書かれた自筆証書遺言に限られ、申請は遺言者ご本人が予約のうえ法務局に出向く必要があります。また、法務局は形式面を外形的に確認するだけで、遺言の内容が有効かどうかまで保証してくれるわけではありません。
なお、公正証書遺言の場合には、ある程度、公証人が遺言の内容を見てくれます。つまり、公正証書遺言の方が、遺言の内容が有効になる確率が高まります。
そのため、基本的には、公正証書遺言をお勧めします。
自筆証書遺言保管制度は、どうしても自筆証書遺言を残したいとお考えの場合に限り、お勧めできる制度です。

保管制度があるからといって、公正証書遺言が劣後するとは、私は考えておりません。

【解説】

1 どんな制度か

自分で書く遺言書(自筆証書遺言)は、費用がかからず手軽に作れる反面、「どこにしまったか分からなくなる」「相続人の一人に捨てられる、書き換えられる」といった心配がつきまといます。
そこで、法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)に基づき、法務局が自筆証書遺言を預かる制度が令和2年に始まりました。法務省の説明によれば、原本は遺言者の死亡後50年間、画像データは150年間保管されます。
預けたからといって遺言の効力が強くなるわけではありませんが、「無くならない」「勝手に手を加えられない」という点で、自筆証書遺言の弱点をかなり補える制度だといえます。

2 預けられるのは「決められた様式」の自筆証書遺言だけ

まず、遺言書そのものが民法の要件を満たしている必要があります。自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自分で書き、印を押さなければなりません(民法968条1項)。日付は「令和8年3月吉日」のような書き方では足りず、年月日を特定して書きます。
財産の一覧表(財産目録)だけは、パソコンで作ったものや通帳のコピー、登記事項証明書を添付する方法でもよいとされていますが、その場合は目録の全てのページに署名して押印しなければなりません(民法968条2項)。書き間違えを直すときの方法にも決まりがあります(同条3項)。

そのうえで、保管制度を使うには、法務省令が定める様式に従う必要があります。法務省が案内している主な注意点は次のとおりです。

  • 用紙はA4サイズ
  • 余白は最低でも上5ミリメートル、下10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートルを空ける
  • 片面のみに書く(裏面には書かない)
  • 複数ページになるときは、各ページに「1/2」「2/2」のような通し番号を書く
  • ホチキス等で綴じない(バラバラのまま提出する)
  • 封筒は不要

余白に文字がかかっていると預かってもらえないことがあります。書き始める前に、法務省「遺言書の様式等」のページで最新の注意事項をご確認ください。

3 申請の手順

申請できるのは、遺言者の住所地、本籍地、または遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所のいずれかです(同法4条3項)。2通目以降を預けるときは、最初に申請した保管所に出す扱いとされています。
そして、保管の申請は「遺言者本人が遺言書保管所に自ら出頭して」行わなければなりません(同法4条6項)。代理人に頼んだり、郵送で済ませたりすることはできません。当日は事前予約が必要です。

法務省の案内によれば、当日必要になるのは、遺言書のほか、保管申請書、本籍と筆頭者の記載があってマイナンバーや住民票コードの記載のない住民票の写し、顔写真付きの官公署発行の身分証明書です。手数料は遺言書1通につき3,900円で、収入印紙で納めます。
手続が終わると、保管番号が記載された「保管証」が交付されます。ご家族にその存在を伝えておくと、相続開始後の手続がスムーズになります。

4 相続が始まった後はどうなるか

最も大きな効果は、家庭裁判所の検認が不要になることです。通常、遺言書を保管していた人や発見した相続人は、家庭裁判所に提出して検認を請求しなければなりません(民法1004条1項)。しかし、遺言書保管所に保管されている遺言書については、この規定が適用されません(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。検認の手続にかかる時間と手間を省ける点は、ご遺族にとって小さくない利点です。

相続人や受遺者などは、遺言書の内容を証明する「遺言書情報証明書」の交付を請求できます(1通1,400円)。不動産の相続登記や預貯金の払戻しに使える書面です。遺言書が預けられているかどうかを調べたいときは、誰でも「遺言書保管事実証明書」を請求できます(同法10条、1通800円)。閲覧はモニターが1,400円、原本が1,700円です。

通知の仕組みも用意されています。相続人などの一人が証明書の交付や閲覧を受けると、法務局から他の相続人らに「遺言書を保管している旨」が通知されます(同法9条5項。関係遺言書保管通知)。さらに、遺言者が希望する場合には、あらかじめ3名までを指定しておき、法務局が戸籍担当部局との連携で死亡の事実を確認した時点でその方に通知が届くようにすることもできます(指定者通知)。「遺言書を預けたのに誰にも気づかれない」という事態を避けるための仕組みです。

5 撤回・変更もできます

気が変わったときは、保管の申請を撤回して遺言書を返してもらえます。撤回は遺言者本人が、原本を保管している遺言書保管所に出頭して行います。手数料はかかりません。
また、遺言者の氏名・住所・本籍などが変わったときは、変更の届出をします。こちらは全国どこの遺言書保管所でも、郵送でも手続でき、手数料は不要とされています。引っ越し後にそのままにしていると通知が届かないおそれがありますので、忘れずに届け出たいところです。

6 この制度で解決しないこと

注意していただきたいのは、法務局が確認するのは民法の定める形式に適合しているかどうかの外形的なチェックにとどまる、という点です。法務省も、遺言の内容についての相談には応じられないと案内しています。
したがって、預けたからといって、次のような問題が消えるわけではありません。

  • 「この財産を誰に」という書き方があいまいで、相続登記や払戻しに使えない
  • 遺留分(民法1042条以下)への配慮がなく、後から金銭の請求で争いになる
  • 作成当時の判断能力(遺言能力。民法963条)が後から争われる

以上の点は、公正証書遺言であれば、公証人が指摘してくれることがあります。そのため、自筆証書遺言よりも費用はかかりますが、公証人が関与する公正証書遺言であれば、上記の点はある程度カバーできます。財産の種類が多い場合や、相続人の間で意見が分かれそうな場合には、書き上げる前に一度弁護士にご相談いただくとよいかと思います。

(参考)法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)4条・9条・10条・11条、民法963条・968条・1004条・1042条、法務省「自筆証書遺言書保管制度」各ページ。

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浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。