相続に関するQ&A6~相続放棄後は手をつけない~
Q 親が死亡しました。親に遺産はないので、相続放棄をしました。親はアパート暮らしをしていたところ、アパートの大家さんから「相続放棄をしたことは理解しているので、未払家賃は請求しない。ただ、アパートの片付けはしてもらえないか。」と言われました。片付けくらいなら良いでしょうか。
A あなたが、アパートに関し親の保証人になっていない限り、片付けといえども、手を付けない方が無難です。
【解説】
民法921条1号・3号で、「相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき」には、単純承認とみなされます。仮に、相続放棄の手続をとった後も同様です。
そのため、「相続財産」を「処分」してしまうと、相続放棄の効果が失われてしまうという訳です。
そして、「処分」には、毀損する行為を含むとされています(新注釈民法19p545)。
つまり、捨てる行為も「処分」に当たります。
なお、ここでいう「相続財産」には、一応、議論があります。大審院の判例では、形見分けされた衣類についても「相続財産」であるとしたものがあります(大判昭和3年7月3日)。
ただ、戦後は、衣類程度の形見わけでは「相続財産」に当たらないとする高裁判例も出ているようです。
そのため、完全なゴミ(腐った食品など)を「処分」しただけでは単純承認にあたりませんが、衣類程度になってくると、争われてしまう可能性があると言い換えることができます。最終的に相続放棄が認めらるとしても、争われてしまうだけで、金銭的・精神的な負担がかかる可能性があります。
つまり、アパートの片付けをする際は、完全なゴミと、完全なゴミとまでは言えないものを区別して、捨てることが必要ということになります。しかし、片付けの際に、そのような区別は困難です。
しかも、思わぬものに価値があるということが稀にあります。たとえば、どう見ても古びた雑誌が、実はレア雑誌であったなどという場合は、稀にあることです。
そこまで考えていくと、片付けといえども、リスクがあるということになります。しかも、片付けたところで、相続放棄をしている方にメリットはありません。たとえば、敷金が多く受け取れるということもありません。相続放棄をしている以上、敷金を受けとる権利は絶対に無いからです。
つまり、ハイリスク・ノーリターンです。
そのため、私としては、保証人になっていない限り、相続放棄をした後のアパートの片付けには慎重になるべきと考えます。