【判例速報】福岡地裁・労働組合書記の解雇を無効と判断ほか計5件(2026年11月1日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの5件を取り上げます(インターネット関連分野に直接該当するものは0件です。ただし1件は、スマートフォンのヘルスケア履歴や操作履歴が事実認定に用いられた事案です)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。各判例は、裁判所ウェブサイトに掲載された判決文に基づいて要約しています。

1 福岡地裁 令和8年9月28日判決(令和7年(ワ)第321号)

事件名:地位確認等請求事件

事案の概要

A市職員により組織される労働組合(被告。法人登記のない権利能力なき社団)に、令和3年12月1日から書記として雇用された原告が、令和6年3月18日付けの解雇(本件解雇)は無効であると主張して、雇用契約上の地位確認と、令和6年4月以降の賃金・賞与(バックペイ)の支払を求め、あわせて、被告代表者(執行委員長B)の令和5年8月18日と令和6年2月19日の各発言が不法行為に当たるとして、各55万円の損害賠償を求めた事案です。被告は、原告が組織強化業務(組合員を増やす活動等)に消極的で、勤務成績が不良であり、被告の職員が準じるA市職員分限に関する条例3条(地方公務員法28条)に該当すると説明していました。

判決の内容

  • 主文:原告が雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。被告は、原告に対し、令和6年4月から判決確定の日まで、毎月20日限り26万2920円、毎年6月30日及び12月10日限り53万7570円(いずれも各支払期日の翌日から年3%の割合による金銭を付加)を支払え。原告のその余の請求(不法行為に基づく損害賠償請求)をいずれも棄却する。訴訟費用はその20分の3を原告の、その余を被告の負担とし、賃金・賞与の支払を命じた部分(主文第2、3項)に仮執行宣言を付しました。
  • 判決は、紛争の原因は、原告の主たる業務に組合活動そのものに積極的に携わることが含まれるかについての認識の食い違いにあり、その原因ないし責任は、入職前やその直後に組織強化業務の内容を詳細には説明しなかった被告にあるとしました。また、被告は、青年協議会や集会への参加が所定労働時間外の残業として命じられていることを明確に告げず、業務上の指揮命令であるとの原告の理解を得ていなかったと認定しました。
  • そのうえで、一般事務等の書記局業務の遂行の程度が求められる水準を大きく下回っていた事実は認められないとして、地方公務員法28条1項1号・3号に関する本件条例3条1項・3項の各場合に当たるとは認められず、本件解雇は「客観的に合理的な理由及び社会的な相当性を欠き、無効である」と判断しました。賞与は、算出方法(給料と地域手当を基礎として2.25か月分)が明確に定められていたことから、賃金と同様に請求を認めました。
  • 被告代表者の各発言については、「原告への配慮が及ばない面」があったとしつつ、自身の経験を基に親切心から意見・見解を述べたもので態様も穏当であったなどとして、不法行為には当たらないとしました。

実務上のポイント

  • 採用時に、所定労働時間外の会議・集会への参加など、主たる業務の具体的内容を説明していなかったことが、解雇の有効性の判断で使用者側に不利に働いた事例です。業務上の指揮命令であることを明確にせず、業務命令に反する行動を具体的に指摘した注意・指導や処分もないまま解雇に至った経緯も指摘されています。

出典:裁判所ウェブサイト(判例ページ)/判決文PDF

2 東京地裁 令和8年5月25日判決(令和7年特(わ)第3376号)

事件名:金融商品取引法違反被告事件

事案の概要

人工知能及び人工知能関連技術の研究・開発等を目的とする被告会社で営業業務を統括管理していた事業部長等(被告人B)と、経理業務を統括管理していた財務経理部長(被告人C)が、代表取締役社長D及び取締役最高財務責任者Eと共謀の上、資金循環取引によって売上高を架空計上し、新規上場に伴う株券の募集及び売出しに際して虚偽の記載のある有価証券届出書を提出し(令和6年9月5日)、上場後に虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した(令和7年3月27日)事案です。例えば令和6年1月1日から同年12月31日までの連結会計年度について、売上高が10億9000万1000円であったのに、60億5728万8000円と記載していました。

判決の内容

  • 主文:「被告人株式会社Aを罰金3億円に、被告人B、被告人Cをいずれも懲役3年に処する。」「この裁判確定の日から5年間、被告人B、被告人Cに対し、それぞれその刑の執行を猶予する。」(執行猶予は被告人B・Cの懲役刑に付されたものです。求刑は、被告会社罰金3億円、被告人B・C懲役3年)
  • 判決は、架空売上高が3会計年度で合計約110億円に及び、被告会社は虚偽の有価証券届出書の提出により「本来であれば到底承認されなかった新規上場を果たして」、1万6000以上の顧客に1035万株を売り出し、合計約44億円の資金調達に成功しているとして、「証券市場に与えた影響は甚大であった」としました。
  • 他方で、被告人B・Cは代表取締役や最高財務責任者の「指示を受ける従業員という立場にすぎなかった」こと、事実を認めていること、前科がないこと、被告会社が清算手続に移行する方針であることなどを考慮して、両名の刑の執行を猶予しました。

実務上のポイント

  • 新規上場前後の粉飾について、代表取締役らの指示を受ける立場にあった営業・経理の部門責任者も、共謀の上の犯行として有罪とされた事例です。架空計上の発覚を防ぐため、商流を変更したり、取引が実在するかのような外形を作出したりした点が悪質と評価されています。

出典:裁判所ウェブサイト(判例ページ)/判決文PDF

3 東京地裁立川支部 令和8年10月7日判決(令和8年(わ)第744号、第896号)

事件名:日本郵便株式会社法違反被告事件

事案の概要

日本郵便株式会社東京支社で郵便物取集委託契約業務等に従事していた被告人が、自動四輪車取集委託契約の入札等に関し、運送業者2社の経営者らから賄賂を収受した事案です。被告人は、株式会社Bに有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に、令和6年10月16日、同社で入札等の業務に従事していたCから現金10万円の供与を受け、同月24日から25日までのホテルの宿泊代金合計10万500円相当を同社に負担させたうえ、入札が不調となった場合に予定価格を上回る最低価格で入札した業者との一者指定契約に移行することを利用して同社と契約を締結するため、同社が提出していた原価計算書を入札参加業者の中で最も低い金額のものに差し替え、令和7年2月12日、同社の代表取締役Aに、職務上把握していた秘密事項である予定価格を上回る最低価格となる価格帯を撮影した画像データを携帯電話機で送信して教示するなどしました。その謝礼の趣旨の下に同年5月16日から17日までの宿泊代金等合計104万3500円相当を同社に負担させたほか、別の業者(株式会社E)の代表取締役Dから、同年4月19日に腕時計1個(販売価格123万2000円)の送付を受けました。

判決の内容

  • 主文:「被告人を懲役2年に処する。」「この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。」腕時計1個を没収し、「被告人から金124万4000円を追徴する。」(求刑は懲役3年、主文同旨の没収及び追徴)
  • 判決は、被告人が得た賄賂は合計247万6000円相当に上り、被告人の行為は「郵便物取集委託契約に係る入札の意義を没却させ、日本郵便株式会社の職務の公正及びそれに対する社会一般の信頼を大きく損ねる悪質なもの」であるとしました。
  • そのうえで、「刑法犯との法定刑の相違を踏まえて同種事案の量刑傾向を参照」し、事実を認めて反省していること、懲戒解雇処分を受け実名報道がなされるなど一定の社会的制裁を受けていること、犯罪歴がないことなどを考慮して、刑の執行を猶予しました。

実務上のポイント

  • 郵政民営化に伴い設立された日本郵便株式会社の職員による収賄が、日本郵便株式会社法違反として処罰された事例です。判決は、入札の秘密事項の内通などの不正行為を伴う点を含め、悪質なものと評価しています。

出典:裁判所ウェブサイト(判例ページ)/判決文PDF

4 神戸地裁姫路支部 令和7年11月28日判決(令和6年(わ)第533号)

事件名:保護責任者遺棄致死被告事件(判決文冒頭の宣告日は令和7年11月28日、末尾の日付は令和7年12月3日と記載されています)

事案の概要

重症心身障害児で、喉頭気管分離術を受けていて自ら排痰することができず、他者による喀痰の吸引を要するA(当時8歳)を単独で養育していた親権者の被告人が、令和5年1月27日午後0時20分頃に外出して同児を自宅に置き去りにし、当時の交際相手方に滞在するなどして帰宅せず、同月28日午前9時40分頃までの間に、同児を喀痰による気道閉塞又は気道狭窄による急性窒息により死亡させた事案です。被告人は、同児を寝かしつけて午後4時過ぎに外出した、入眠時は喀痰吸引が必要ではなかったなどと供述し、遺棄の故意等を争いました。

判決の内容

  • 主文:「被告人を懲役2年8月に処する。」「未決勾留日数中240日をその刑に算入する。」(求刑は懲役4年、弁護人の科刑意見は執行猶予付き判決)
  • 判決は、主治医の証言等から、被害者は眠っていないときには数時間おきに喀痰を吸引しなければならず、眠っている途中でも吸引が必要となる場合が生じる可能性があり、吸引をしなければ窒息して死亡してしまう危険があったと認め、被告人もそのことは分かっていたと認定しました。
  • 外出時刻については、交際相手の供述が、被告人のスマートフォンのヘルスケア履歴(歩数・距離、上がった階数)と整合するとして、その信用性を認めました。他方、被告人の供述は、午後4時から午後4時40分頃までの間に移動したヘルスケア履歴が「一切残っていない」こと、28日午前0時台・1時台のスマートフォンの操作履歴と「はなはだ整合しない」ことなどから信用できないとし、被告人は一泊するつもりで27日午後0時20分頃に自宅を離れたと認定しました。
  • そのうえで、被害者を「少なくとも20時間は一人だけにしてしまうことになる被告人の外出行為が、置き去りによる遺棄行為に該当することは明らかである」としました。量刑では、被告人の負担が重かった背景事情を考慮しつつも、「実刑の宣告が避けられない事案」としたうえで、酌量減軽をしています。

実務上のポイント

  • 外出の時刻という争点について、スマートフォンのヘルスケア履歴(歩数・距離)やアプリの操作履歴が、供述の信用性を判断する客観的な証拠として用いられた事例です。判決は、ヘルスケア履歴のうち「上がった階数」の記録は「歩数・距離」と比べて正確性に疑問があるとしつつ、歩数・距離の記録から外出が推認される状況で、交際相手方の階段を2階分昇った事実と矛盾しないとして考慮しており、デジタル記録の項目ごとに正確性を検討している点も参考になります。

出典:裁判所ウェブサイト(判例ページ)/判決文PDF

5 松山地裁 令和8年5月20日判決(令和7年(わ)第213号)

事件名:殺人(判決文冒頭の宣告日は令和8年5月20日、末尾の日付は令和8年5月21日と記載されています)

事案の概要

統合失調症と診断され精神科病院への入退院を繰り返していた被告人が、令和7年4月2日、40年近く同居してきた実母である被害者(当時80歳)が松山市保健所の職員と電話していることを知り、また精神科病院に入院させられるなどと考え、被害者の頭部を花瓶で複数回殴り、頸部をペティナイフで多数回突き刺すなどして殺害した事案です。被告人が犯行当時、心神耗弱の状態にあったかが検討されました(検察官もこの点を争っていません)。

判決の内容

  • 主文:「被告人を懲役7年に処する。」「未決勾留日数中210日をその刑に算入する。」(求刑は懲役8年、弁護人の科刑意見は懲役4年)
  • 判決は、刑事訴訟法335条2項の主張に対する判断として、精神鑑定を行った医師の証言を信用できるとし、被告人は犯行当時、統合失調症の急性増悪の状態にあったと認め、被告人が妄想、脱抑制、高揚等の影響を強く受けていたという医師の説明は納得できるとしました。そして、動機や犯行前後の行動等には了解可能で合理的な面もあるものの、「精神障害の影響により、善悪の判断に基づき、自分の行動を思いとどまることができる能力が著しく低下していた可能性を否定できず、心神耗弱の状態にあったと認める」としました。
  • 量刑では、病気の影響がなかった者と同程度に非難することはできず刑を相当程度低くする必要があるとしつつ、犯行動機には精神障害の影響によらない理解可能な部分もあり、「被告人の意思による犯行であったという側面が否定できるわけではない」として、主文の刑としました。

実務上のポイント

  • 心神耗弱を認めたうえで、犯行動機に精神障害の影響によらない理解可能な部分があることも考慮して、量刑を判断した事例です。

出典:裁判所ウェブサイト(判例ページ)/判決文PDF

出典

  • 福岡地裁令和8年9月28日判決(令和7年(ワ)第321号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97222/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97222.pdf
  • 東京地裁令和8年5月25日判決(令和7年特(わ)第3376号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97187/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97187.pdf
  • 東京地裁立川支部令和8年10月7日判決(令和8年(わ)第744号、第896号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97224/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97224.pdf
  • 神戸地裁姫路支部令和7年11月28日判決(令和6年(わ)第533号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97221/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97221.pdf
  • 松山地裁令和8年5月20日判決(令和7年(わ)第213号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97228/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97228.pdf
  • e-Gov法令検索:刑事訴訟法335条、地方公務員法28条

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。