【判例速報】最高裁・生活保護基準引下げ(デフレ調整)を違法とし保護変更決定の取消しを認めた4判決/大阪地裁・「月見」商標とコンビニのおにぎり(2026年10月24日)

本記事では5件の裁判例を取り上げます。うち4件は同じ日に言い渡された最高裁判所の判決で、争点が共通するため、まとめて紹介します。インターネット関連分野に直接該当するものは0件です。裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しました。

1〜4 最高裁第三小法廷 令和8年10月23日判決(生活保護基準の引下げ・4件)

  • 令和6年(行ヒ)第339号 生活保護引下げ処分取消請求事件(秋田市内に居住していた受給者)
  • 令和6年(行ヒ)第386号 生活保護変更決定取消請求事件(兵庫県内に居住していた受給者)
  • 令和7年(行ヒ)第205号 保護変更決定処分取消請求事件(佐賀県内に居住していた受給者)
  • 令和7年(行ヒ)第310号 行政処分取消請求事件(熊本県内に居住していた受給者)

事案の概要

生活保護法に基づく生活扶助を受給していた上告人らが、平成25年から平成27年にかけて行われた、厚生労働大臣による「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)中の生活扶助基準の改定(本件改定)を理由として、福祉事務所長から生活扶助の支給額を変更する旨の保護変更決定を受けたため、本件改定は違法であるなどと主張して、その取消しを求めた事案です。

本件改定は、主に、平成25年検証の結果を生活扶助基準に反映する「ゆがみ調整」と、物価変動率を指標として基準生活費を変更する「デフレ調整」とを内容とするものでした。デフレ調整は、改定前の基準生活費を一律に4.78%減ずるもので、生活扶助相当CPIの平成20年から平成23年までの下落率が4.78%であることを生活扶助基準額に反映させたものです。原審は、いずれも上告人らの請求を棄却すべきものとしていました。

判断の要旨

最高裁は、厚生労働大臣の裁量判断の適否は、主として本件改定に至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきものとしました(最高裁平成24年2月28日第三小法廷判決、最高裁平成24年4月2日第二小法廷判決を参照)。

そのうえで、物価変動率について、「生活扶助基準の改定の際の指標の一つとして勘案することが直ちに許容されないものとはいえないとしても、それだけでは消費実態を把握するためのものとして限界のある指標であるといわざるを得ない」と述べました(物価変動率を指標の一つとして考慮すること自体は直ちに否定されないが、それだけでは消費実態の把握に限界がある、という意味です)。そして、物価変動率のみを直接の指標として用いることが合理的であることについて、専門的知見に基づいた十分な説明がされているということはできず、基準部会等による審議検討が経られていないなど、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められないとしました。本件改定後に行われた平成29年検証の結果によっても、この評価は左右されないとしています。

結論として、本件改定は、物価変動率のみを直接の指標としてデフレ調整をすることとした点において、厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、生活保護法3条、8条2項に違反して違法であると判断しました。判決理由中の判断はデフレ調整についてのもので、ゆがみ調整(2分の1処理を含む)の適否についての判断は示されていません。いずれも裁判官全員一致の意見です。

主文

  • 第339号・第386号・第205号:「原判決のうち、上告人らに関する部分を破棄し、同部分につき、第1審判決を取り消す。」「別紙処分目録記載の各処分をいずれも取り消す。」訴訟の総費用は被上告人(第386号・第205号は被上告人ら)の負担としました。
  • 第310号:「原判決のうち、上告人らに関する部分を破棄し、同部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。」控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担としました。同事件では、第1審判決が上告人らの取消請求を認容しており、最高裁はこの第1審判決を正当としました。

実務上のポイント

平成25年から平成27年の生活扶助基準の改定のうちデフレ調整について、最高裁が同じ日に4件の判決で違法と判断し、保護変更決定の取消しを認めました。生活扶助基準の改定という専門技術的・政策的な裁量判断について、判断過程の審査の枠組みの下で、改定の指標の選択に「専門的知見に基づいた十分な説明」があるかを具体的に審査した例として注目されます。

出典:令和6年(行ヒ)第339号(判決文PDF)/令和6年(行ヒ)第386号(判決文PDF)/令和7年(行ヒ)第205号(判決文PDF)/令和7年(行ヒ)第310号(判決文PDF)

5 大阪地裁 令和8年10月15日判決(令和8年(ワ)第3294号 損害賠償請求事件・商標権)

事案の概要

登録商標「月見」(標準文字。商標登録第6095738号、指定商品は第30類「弁当、おにぎり」)の商標権を有する原告(株式会社Presto)が、被告(株式会社ファミリーマート)に対し、被告が令和7年9月30日頃から同年10月13日頃まで「月見背徳メシ」と称するキャンペーンを実施し、その取扱商品の1つとして煮卵が入ったおにぎり商品を販売したことが本件商標権を侵害するとして、民法709条に基づき、損害賠償金100万円(一部請求)及び遅延損害金の支払を求めた事案です。本訴は枚方簡易裁判所に提起され、被告の申立てを受けて大阪地裁に移送されました。

判断の要旨

被告商品の包装の表示は、「月見おむすびマヨたま」と「(こってりガーリックマヨ)」を左右二行に縦書きしたもの(被告標章1)でした。判決は、「月見」の部分が黄色で他の文字部分と差別化され、目立つ態様であることは認めつつ、キャンペーン商品に共通する商品コンセプトを前面に出す趣旨と解されるものであって、「出所識別標識として強調されているとはいえない」としました。

また、「月見」の語が卵黄を月に見立てた料理を表す語としても用いられるものと広辞苑に明記されていること、「月見○○」「○○月見」といった料理名・食品名が広く一般的に用いられていること、中秋の名月の時期に卵を具材に取り入れた料理や食品を「月見」の文字を含む名称で販売展開することは他社においても広く行われていることなどから、被告標章1から「月見」の部分のみを分離して商標の類否を判断すべきとする原告の主張は採用できないとしました。

そのうえで、本件商標と被告標章1ないし5(包装、ショーカード、ポスター上の「月見おむすびマヨたま」「月見背徳」「月見背徳メシ」などの表示)はいずれも類似しないとして、その余の争点(商標的使用、無効理由ないし権利濫用、損害の有無及び金額)について検討するまでもなく、原告の請求には理由がないとしました。主文は「原告の請求を棄却する。」で、訴訟費用は原告の負担です。

実務上のポイント

一般的な料理名として用いられる語を登録商標とする商標権に基づく請求について、結合商標の分離観察を否定し、非類似として請求を棄却した例です。キャンペーン全体で特定の語を色分けして強調していても、それが商品に共通するコンセプトを示す趣旨と解される場合には、出所識別標識として強調されたものとはいえないとされた点が、商品名や広告表示の設計の参考になります。

出典:令和8年(ワ)第3294号(判決文PDF)

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。