【判例速報】神戸地裁・宝塚クロスボウ親族殺傷事件で無期懲役ほか計2件(2026年11月2日)
裁判所ウェブサイトに掲載された裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの2件を取り上げます(インターネット関連分野に直接該当するものは0件です)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。2件とも裁判年月日は数か月以上前ですが、当サイトで未報告であったため取り上げます。各判例は、裁判所ウェブサイトに掲載された判決文に基づいて要約しています。
1 神戸地裁 令和7年10月31日判決(令和3年(わ)第29号)
事件名:殺人、殺人未遂被告事件(判決文冒頭の宣告日は令和7年10月31日、末尾の日付は令和7年11月13日と記載されています)
事案の概要
被告人が、令和2年6月4日午前5時頃から同日午前10時11分頃までの間に、兵庫県宝塚市の被告人方(当時)において、至近距離からクロスボウで矢を発射し、祖母A(当時75歳)、弟B(当時22歳)及び母D(当時47歳)を殺害し、伯母C(当時49歳)に加療約3か月間を要する傷害を負わせた(殺人3件・殺人未遂1件)事案です。被告人が犯行当時、自閉スペクトラム症及び強迫性障害の精神障害に罹患しており、自閉スペクトラム症が犯行に影響を与えたことは争いがなく、争点は責任能力の程度でした。弁護人は心神耗弱を主張しました。
判決の内容
- 主文:「被告人を無期懲役に処する。」「未決勾留日数中1260日をその刑に算入する。」(求刑は死刑、弁護人の科刑意見は懲役25年)
- 責任能力について、判決は、家族に対する不満や恨みから家族を殺して自首し、取調べや裁判の過程で自分の苦悩を周囲に知ってもらいたいという動機は「十分に了解可能」であり、計画・準備・実行の各段階で目的に合致した合理的な行動をとっていたこと、感情的理由から何度も犯行を思いとどまることができていたことなどを指摘し、精神障害は動機形成過程に影響を与えていたものの「これらの精神障害の著しい影響はなく、被告人は、心神耗弱の状態になかったものと認められ、完全責任能力が認められる」としました。
- 量刑について、判決は、結果の重大性、計画性や行為態様の危険性の高さ、動機の自己中心性などから「有期懲役刑を選択できるような事案ではない」とする一方、金銭欲に基づく類型の犯行ではないこと、一つの機会に行われた犯行であること、無理心中の要素があること自体は否定できないこと、動機形成過程に自閉スペクトラム症の特性等が影響しており一定程度被告人に有利に考慮するのが相当であることなどから、「死刑を選択することが真にやむを得ないとまではいえない」として、無期懲役としました。
実務上のポイント
- 死刑求刑事件で、量刑検索システムにより同種の裁判例(死亡した被害者が3人のもの)を参照したうえで、死刑選択の可否を検討した事例です。責任能力の判断では精神障害の著しい影響が否定され(心神耗弱の主張は退けられ)つつ、量刑上は動機形成過程への影響として考慮されています。
- 被告人がインターネットで検索したり販売店に問い合わせたりして凶器を選定し、躊躇なく発射できるような方法を調べたことなどが、計画性が極めて高いことの根拠とされています。
2 神戸地裁 令和8年1月14日判決(令和6年(わ)第328号)
事件名:被告人3名に対する各傷害致死、死体遺棄被告事件(判決文冒頭の宣告日は令和8年1月14日、末尾の日付は令和8年1月23日と記載されています)
事案の概要
被告人3名(被告人A、被告人B及び被告人C)が、D(被告人3名のきょうだい)と共謀の上、令和5年6月19日、神戸市内の被告人ら方において、被告人Aの実子であるE(当時6歳)に対し、床にうつ伏せにしたEの背部を鉄パイプで多数回殴り、Eの背中の上に乗って多数回飛び跳ねたり踏みつけたりするなどの暴行を加えて、外傷性ショックにより死亡させ、同日、Eの死体をキャリーケース内に隠匿した上、草むらに運搬して投棄し、死体を遺棄した事案です。主たる争点は、被告人B及び被告人Cの共謀の範囲と、両被告人の適法行為の期待可能性の有無でした。
判決の内容
- 主文:「被告人Aを懲役4年に、被告人B及び被告人Cをそれぞれ懲役3年に処する。」「被告人3名に対し、未決勾留日数中各660日を、それぞれその刑に算入する。」「被告人B及び被告人Cに対し、この裁判が確定した日から5年間それぞれその刑の全部の執行を猶予する。」(執行猶予は被告人B及び被告人Cの懲役刑に付されたもので、被告人Aは実刑です。求刑は、被告人Aにつき懲役8年、被告人B及び被告人Cにつきそれぞれ懲役7年)
- 共謀の範囲について、判決は、朝食前の暴行(第1暴行)の際、Dが被告人B及び被告人CにEの手足を押さえるように、被告人AにEを鉄パイプで叩くように命令し、各被告人がこれに従ったことで暴行の共謀が成立したと認めました。被告人B及び被告人Cが直接加わっていない朝食後の暴行(第2暴行)も、第1暴行と「一連一体のもの」であり「第1暴行における共謀に基づく行為と認められる」とし、共謀関係から離脱したと評価される行動もないとして、両被告人に第2暴行についても共同正犯としての責任を認めました。
- 期待可能性について、判決は、期待可能性の理論による責任の阻却は「一般人が実際にその行為者の状況に置かれた場合に、適法行為に出る期待可能性がないといえるような極限的な状態の場合にのみ認められるべき」としました。そのうえで、被告人B及び被告人CはDのマインドコントロール下にあり、外部に助けを求めることが非常に困難で、Dの命令には逆らい難い状況であったと認めつつ、本件以前にDの命令通りの行動を取らないこともできていたこと、本件当日も被告人BはEの頭を抱えるような姿勢を取り、被告人CはEの足首を親指と人差し指でつかむなどDの命令と異なる行動を取れていたこと、命令された時点で両被告人に暴力は加えられていなかったことなどから、適法行為の期待可能性はあり「その程度が相当低下していた」と認め、無罪の主張を退けました。
- 量刑について、判決は、主犯はDで、被告人3名はいずれも従属的な立場にあったとし、被告人B及び被告人Cについては、従属的な立場や暴行態様、期待可能性の程度等に照らし執行猶予を付す余地があるとしました。被告人Aについては、二度にわたり鉄パイプでEの背中を多数回殴打したことなどから、「執行猶予を付す余地はなく、実刑に処すほかない」としました。なお、被告人Aの暴行がEの死因に直結したとの検察官の主張については、「直結したとまでは認められない」としています。
実務上のポイント
- 主犯の支配(マインドコントロールや暴力)の下で犯行に加わった者について、適法行為の期待可能性がないとの主張を退けつつ、期待可能性の程度が相当低下していたことを量刑上考慮して執行猶予を付した事例です。命令に完全には従っていなかった具体的な行動が、期待可能性を認める根拠とされている点が参考になります。
出典
- 神戸地裁令和7年10月31日判決(令和3年(わ)第29号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97218/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97218.pdf
- 神戸地裁令和8年1月14日判決(令和6年(わ)第328号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97219/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97219.pdf

