【判例速報】東京地裁・バイククラブの「看板」ワッペンと商標権侵害の主体、使用貸借の原状回復ほか計3件(2026年10月25日)
裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの3件を取り上げます(インターネット関連分野に直接該当するものは0件です)。
裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しました。
1 東京地裁 令和8年10月9日判決(令和5年(ワ)第70228号 損害賠償等請求事件)
事案の概要:原告ユナイテッドエフォートは、モーターサイクルクラブ「MCケンタウロス」に関する商標権を保有し、原告ケンタウロスは独占的通常使用権を主張していました。原告らは、クラブ創設者Cの妻である被告が、入団者に交付される「看板」(ワッペンのセット)を製造・販売して商標権を侵害したとして、差止め・廃棄と損害賠償を求めました。あわせて原告ユナイテッドエフォートは、被告とCが借りていた建物(古民家)の使用貸借契約上の原状回復義務の不履行を理由に、民法415条に基づき2951万8902円の損害賠償を求めました(予備的に不法行為等も主張)。
判断の要旨(商標権):本件セットは、Cによって「本件クラブへの入団を認めたメンバーに、本件クラブのメンバーであることを示す「看板」として入団時に贈られていたもの」であり、被告が、Cの生前に、Fに本件セットを交付し、Fが支払った100万円をDから受領し、本件セットの製造を業者に依頼したことは、「Cの妻として、Cに代わって本件クラブに関する業務を事実上代行したものとみるのが自然である」としました。そのため、被告を製造・譲渡の主体ということはできず、商標権侵害は認められないとして、差止め・廃棄請求と独占的通常使用権侵害に基づく損害賠償請求をいずれも棄却しました。Cの死後にFから預かった本件セットを返還した行為についても、「「譲渡」に当たるということはできない」としました。
判断の要旨(原状回復):使用貸借契約書の「乙(借主)」欄に被告の署名押印があること等から、被告もCと共に借主として契約を締結したと認めました。そのうえで、「借主の原状回復義務に係る債務は不可分債務であり、その不履行による損害賠償請求債務についても、各借主がその全額を支払う義務を負うものと解される」として、被告の民法415条に基づく責任を認めました。損害額は、建築業者の見積書のうち変更が認められた箇所の費用合計2021万4321円について、古民家である本件建物の変更箇所は引渡時に経年劣化が進行していたと考えられる一方、見積書の工事は新たに材料を調達する前提で引渡時の水準を上回る回復となること、引渡時頃の写真から石・石灯籠・植栽等の原状を正確に把握することが困難であること等を考慮し、その6割である1212万8592円としました。また、旧民法600条(平成29年法律第44号による改正前のもの)の除斥期間の主張については、原状回復請求権は「契約終了時に当然に発生するもの」であり、同条は「原状回復請求権に関する規定であるとはいえない」として退けました。
結論(主文):被告は、原告ユナイテッドエフォートに対し、1212万8592円及びこれに対する令和5年6月17日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。原告ユナイテッドエフォートのその余の主位的請求及び原告らのその余の請求をいずれも棄却する(一部認容)。第1項に限り仮執行宣言が付されています。
実務上のポイント:クラブ創設者の妻が「看板」の交付や製造依頼に関与していた事案で、被告が「メンバーの選別を含む本件クラブの運営上の判断を行っていたとする具体的な事実関係は認められない」として、商標権侵害の主体性を否定した事例です。また、共同借主の一人である被告に、原状回復義務の不履行による損害賠償債務の全額について責任が認められた点、見積額のうち変更が認められた箇所の費用(2021万4321円)の6割に限って損害を認めた点も、建物明渡しをめぐる実務の参考になります。
2 高松地裁 令和8年9月25日判決(令和8年(わ)92号)
事案の概要:香川県弁護士会所属の弁護士Aが、依頼者Bの不当利得返還請求訴訟に関して相手方Cから「預り口弁護士A」名義の口座に振込入金を受けた、部分判決に基づく支払金281万1236円を、Bのために業務上預り保管中、令和5年10月20日から同年11月30日までの間、24回にわたり、合計228万2685円を出金又は送金して着服し、横領したと認定された事案です。
判断の要旨:量刑の理由では、Aは確定申告の無申告による課税徴収を受けて以降、他の依頼者の預り金の流用を繰り返すようになったこと、横領した金銭は無断で引き出された預貯金を取り戻したものであり、Aは「職業上その被害回復を支える立場にあった」ことを指摘し、「弁護士に対する社会的信用を失墜させた」としました。他方、預り金281万1236円全額を弁護士報酬を差し引くことなく返還したこと、前科前歴がないこと等を考慮しました。
結論(主文):被告人を懲役2年6月に処する。この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する(求刑・懲役3年)。
実務上のポイント:弁護士の預り金口座の管理について、事務所内の金銭管理の徹底等の業務体制の改善が、酌むべき事情の一つとして考慮された事例です。
3 福島地裁いわき支部 令和8年10月1日判決(令和8年(わ)第88号 有印私文書偽造、同行使、詐欺)
裁判年月日の表記:裁判所ウェブサイトの一覧・詳細ページの裁判年月日は令和8年9月30日ですが、判決書末尾の日付は令和8年10月1日です。
事案の概要:特定非営利活動法人Aの代表理事であった被告人は、同法人が富岡町から「富岡町心の復興事業補助金」の概算払として349万3000円の振込入金を受けていたところ、パーソナルコンピュータ及びプリンタを使用して事務局員D名義の領収書3通を偽造し、これらと内容虚偽の領収証の写し等を事業実績報告書と共に電子メールで提出するなどして行使し、同町長に同法人に対して返還を求める補助金額を47万4000円と確定させて、虚偽の支払費用138万7800円の返還を免れたと認定された事案です。
判断の要旨:量刑の理由では、「資金力が乏しい主体でも復興事業に関与できるようにするための概算払の制度を悪用し」た点は強い非難に値するとし、被害弁償がないことも指摘しました。他方、前科前歴がないことを踏まえた同種事案の量刑傾向に照らすと「直ちに被告人に施設内処遇を受けさせる必要があるとはいえない」としました。
結論(主文):被告人を懲役2年6月に処する。未決勾留日数中40日をその刑に算入する。この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。領収書3通の各偽造部分を没収する(求刑:懲役2年6月・主文同旨の没収)。
実務上のポイント:補助金の概算払後の実績報告において、偽造領収書と内容虚偽の領収証を用いて返還額を減らした行為が、詐欺(財産上不法の利益)として処罰された事例です。

