【判例速報】福岡地裁・ハンセン病元患者家族補償金と「事実上の親族」/水戸地裁下妻支部・禁止命令違反のストーカー行為と器物損壊(2026年10月21日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの2件を取り上げます(インターネット関連分野に直接該当するものは0件です。ただし2件目は、LINEのメッセージ、スマートフォンの検索履歴、携帯電話の位置情報等が事実認定に用いられた事案です)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。

1 福岡地裁・ハンセン病元患者家族補償金の対象に「事実上の親族」は含まれない(請求棄却・一部却下)

  • 裁判所:福岡地方裁判所第1民事部
  • 裁判年月日:令和8年7月29日(判決)
  • 事件番号:令和6年(行ウ)第50号、同第51号 不認定処分取消等請求事件

事案の概要

ハンセン病元患者と一定の家族関係にあった原告らが、令和6年法律第57号による改正前のハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律(以下「補償法」)に基づき補償金の支給を請求したところ、厚生労働大臣から、補償法2条2項各号に該当したことがある者とは認められないとして、補償金の支給を受ける権利を認定しない旨の処分を受けたため、処分の取消しと認定の義務付けを求めた事案です。

  • A事件:亡原告Aは、元患者A(昭和17年までに発病し、同年から平成20年まで沖縄県内の療養所に入所)の実兄の二男で、平成14年に元患者Aと養子縁組をしました。亡原告Aは、本件基準日(平成8年3月31日)までの間に元患者Aと実質的な親子関係にあった「事実上の一親等の血族」として補償対象になると主張しました(亡原告Aは訴訟係属中に死亡し、その妻である原告A1が承継)。
  • B事件:元患者Bは、昭和39年に原告B1ら両親と養子縁組をし、昭和41年頃に発病しました。原告B1及び原告B6は、この養子縁組の前に出生していた原告B1ら両親の子であり、原告B2は原告B1の配偶者、原告B3ないし原告B5は原告B1及び原告B2の子です。原告Bらは、補償法2条2項5号ないし7号の拡大解釈等により「事実上の三親等内の血族等」も補償対象になると主張しました。

判断の要旨

主文は、「本件訴えのうち、義務付けを求める部分をいずれも却下する。」「原告らのその余の請求をいずれも棄却する。」「訴訟費用は原告らの負担とする。」です。

  • 補償金の性質:補償金の性質の一部に損害賠償としての側面が含まれていることを考慮しても、補償金は「元患者家族に関する政策的な考慮に基づいて行われる特別な補償であると解するのが相当である」とし、補償法2条2項各号は「元患者家族の範囲の外延を明確化する意図で定められた規定であると解するのが相当である」としました。
  • 文言解釈:1号(配偶者)には事実婚配偶者を含む旨の括弧書きがあるのに対し、2号・5号ないし7号にはそのような括弧書きがないことから、括弧書きの有無は「立法者により意識的に書き分けられているとみるのが自然である」とし、さらに補償法10条との用語の違いや制定過程も踏まえて、各号は元患者との間に民法上の親族の関係があることを前提としていると解しました。そのうえで、事実上の一親等の血族(A事件)や、養子縁組前に出生した子等を含む事実上の三親等内の血族等(B事件)は、元患者家族に含まれないとしました。
  • 憲法14条1項:元患者家族の範囲の定め方は「立法府の合理的な裁量に委ねられている」とし、本件基準日までに養子縁組をした者とそうでない者、事実婚配偶者と事実上の一親等の血族、縁組前に出生した子等と、縁組後に出生した子等及び配偶者の婚姻前の子並びに事実婚配偶者等とを区別することは、いずれも「合理的な根拠のない差別的な取扱いであるということはできない」として、各処分は同項に反しないとしました。
  • 義務付けの訴え:各処分は適法であるから、義務付けを求める部分は行政事件訴訟法37条の3第1項2号の要件を欠き不適法であるとして却下しました。

実務上のポイント

補償法2条2項各号の家族類型について、実質的な生活実態に基づく拡大解釈・類推適用を否定し、民法上の親族関係を基準とした事例です。判決は、元患者と親族関係にない者であっても周囲から偏見差別を受けて精神的苦痛を被った可能性があることは「否定できないところである」と述べつつ、文理を超えた解釈は採れないとしています。なお、本判決が適用したのは令和6年法律第57号による改正前の補償法です。

出典:裁判所ウェブサイト 判例詳細/判決文PDF

2 水戸地裁下妻支部・禁止命令後のストーカー行為と器物損壊(拘禁刑1年・執行猶予4年)

  • 裁判所:水戸地方裁判所下妻支部
  • 裁判年月日:令和8年8月3日
  • 事件番号:令和8年(わ)第20号 ストーカー行為等の規制等に関する法律違反、器物損壊被告事件

事案の概要

被告人は、不倫関係にあった被害者(当時60歳)から関係の解消を伝えられた後も、被害者の自宅を訪れたりLINEでメッセージを送ったりし、警察官から口頭指導等を受けていました。判示によれば、被告人は、被害者に対する恋愛感情等を充足する目的で、令和7年9月28日に被害者方に押し掛け、同年10月16日、「茨城県警察本部長からストーカー行為等の規制等に関する法律5条1項の規定により」、更に反復してつきまとい等をしてはならない旨の禁止命令を受けていたにもかかわらず、同年11月1日、被害者の勤務先の会社駐車場で、被害者が管理する普通乗用自動車の車体に剥離剤様のものをかけて塗装を剥離させるなどし(損害見積額90万6202円)、禁止命令に違反してつきまとい等をすることによりストーカー行為をしたとされました。

判断の要旨

主文は、「被告人を拘禁刑1年に処する。」「この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。」です(求刑は拘禁刑1年)。

  • 争点は、①9月28日の押し掛けが恋愛感情等充足目的によるものか、②11月1日に車両に剥離剤様のものをかけた犯人が被告人か、でした。
  • ①について、関係解消後の被告人の行動や、警察官の指導後も被害者の母親に会いに行くのであれば許されないかなどと食い下がっていたこと等から、恋愛感情等充足目的を有していたことは「優に推認できる」としました。
  • ②について、犯人と、駐車場東方のアパート敷地内に駐車したプリウス(被告人名義)の運転手の人着や行動、時間的近接性等に加え、同車の走行経路データ及び被告人が使用する携帯電話の位置情報から、被告人が犯人であることが「強く推認できる」とし、被告人のスマートフォンに剥離剤や被害者の勤務先等の検索履歴が残っていたこと等も、この推認に沿うものとしました。
  • 量刑では、犯行態様は「執拗かつ悪質」で犯情は相応に重いとしつつ、前科がないことなどから、「比較的長期の猶予期間をもって、今回に限り、その刑の執行を猶予することとした」としています。

実務上のポイント

被告人が犯人性を争った事案で、車両の走行経路データ、携帯電話の位置情報、スマートフォンの検索履歴といったデジタルデータを組み合わせて犯人性を認定した例です。禁止命令の前に、警察官が誓約事項を示して説明し、口頭指導・助言指導を重ねていた経緯も認定されています。

出典:裁判所ウェブサイト 判例詳細/判決文PDF

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。