【判例速報】大阪地裁・特許権侵害等の損害賠償請求を棄却(実施品の開発元表示・図面の著作権)(2026年9月29日)

本記事では1件を取り上げます。裁判所ウェブサイトには掲載日が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しました。

大阪地裁 令和8年9月29日判決(令和7年(ワ)第8962号 損害賠償請求事件)

  • 裁判所:大阪地方裁判所第21民事部
  • 裁判年月日:令和8年9月29日
  • 事件番号:令和7年(ワ)第8962号
  • 当事者:原告 株式会社応用科学研究所/被告 JOHNAN株式会社
  • 結論:請求棄却(主文「原告の請求をいずれも棄却する。」「訴訟費用は原告の負担とする。」)

事案の概要

3件の特許(特許第5440481号、特許第5655531号、特許第5664186号)の特許権者である原告は、平成31年4月23日の覚書により、「ナノトライボロジーその場計測装置」(本件装置)の製造・販売を被告に委託していた。原告は、①被告が日刊工業新聞の取材でプレゼンテーション資料(本件資料)を用いて説明したこと等により、被告が自ら本件装置を開発したかのような外観を作出したことが特許権侵害に当たる、②本件資料に原告作成の図面(本件図面)を利用したことが著作権侵害に当たる、③本件装置を年間6台製造販売する合意に違反した債務不履行がある、と主張し、損害賠償金2940万円及び令和7年2月15日から支払済みまで年3%の割合による金員の支払を求めた。

判断の要旨

  • 特許権侵害(外観作出)について:判決は、原告の主張する被告の行為が「特許法の定める実施行為又は間接侵害行為に該当するものではないことは原告も自認するところ」であるとし、原告の主張は、本件装置を開発したことに関する原告の「何らかの人格的利益」が侵害されたとの主張と理解するほかないとした。そのうえで、その人格的利益が法的な保護に値する根拠が「明らかであるとはいい難く」、仮に保護に値するとしても、本件資料の構成・内容に照らせば、閲覧者は開発元が被告ではなく、Aや同人に関連する企業であることを認識できたとして、外観作出の事実も認めなかった(Aは原告の代表取締役)。
  • 著作権侵害について:原告は本件図面を展示資料・カタログ資料として対価を受けて被告に提供し(被告は対価として7万5000円を支払った)、本件資料のドラフトでスライドに本件図面が掲載されていることを確認したうえで出典の記載を求めていたことから、「被告が本件資料に本件図面を利用することについて原告による許諾があったというべきである」として、侵害を否定した。
  • 年間6台以上の製造販売の合意について:合意を直接裏付ける証拠が提出されておらず、覚書の内容は「被告に本件装置の一定台数の販売を法的に義務付ける内容とは評価できない」とし、新聞記事の内容や製造工程表の記載も「原告と被告との間の具体的な合意を推認させるものとはいえない」として、合意の成立を認めなかった。
  • 損害の発生・額及び消滅時効の争点は、「その余の争点について判断するまでもなく」として判断していない。

実務上のポイント

  • 特許権者が、実施品について相手方があたかも自ら開発したかのように振る舞ったと主張しても、本判決は、その行為が特許法の実施行為・間接侵害行為に当たらない以上、特許権そのものではなく人格的利益の侵害の主張と理解し、その法的保護の根拠が明らかでないとした。
  • 図面を有償で提供し、ドラフト段階で掲載を確認して出典表示を求めていた経緯から、利用の許諾が認定された。素材を提供する際には、利用の目的・範囲を書面で明確にしておくことが望ましい。
  • 本判決は、新聞記事の内容や被告の従業員が作成した製造工程表の記載から、販売台数の合意を推認しなかった。製造販売の委託で数量の義務を求める場合は、契約書・覚書に明記しておくことが望ましい。

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。