【判例速報】最高裁・都議選の島部選挙区と定数配分は違法とはいえない/知財高裁・出願中商標の警告書と金銭的請求権ほか計4件(2026年10月20日)
裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの4件を取り上げます(インターネット関連分野に直接該当するものは0件です)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。
1 最高裁・東京都議会議員選挙の島部選挙区と定数配分は公職選挙法・憲法に違反しない
- 裁判所:最高裁判所第二小法廷
- 裁判年月日:令和8年10月19日(判決)
- 事件番号:令和8年(行ツ)第94号、同年(行ヒ)第86号 選挙無効等請求事件
- 結論(主文):「本件上告を棄却する。」
事案の概要
令和7年6月22日に行われた東京都議会議員一般選挙について、江東区選挙区の選挙人である上告人が、①大島町など島しょ部の9町村を合わせて1選挙区(島部選挙区)とする条例の規定が公職選挙法271条、憲法14条1項等に違反し、②各選挙区の議員の数を定める規定が公職選挙法15条8項、憲法14条1項等に違反するなどと主張して、江東区選挙区における選挙を無効とすること等を求めた事案です。本件選挙当時、島部選挙区を含む42選挙区に127人の定数が配分され、島部選挙区の配当基数は0.221(判決は概算と注記)でした。
判断の要旨
特例選挙区の存置について、判決は、島しょ部が特有の行政需要を有し代表を確保する必要性が高い一方、地理的状況から合区が地続きの場合に比して相当に困難であることなどを挙げ、配当基数0.221が「東京都議会において島部選挙区を特例選挙区として存置することが許されない程度にまで至っているとはいえず」とし、公職選挙法271条に違反していたものとはいえないとしました。
定数配分については、特例選挙区以外の選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差が1対2.54(千代田区選挙区と中央区選挙区)で人口比定数による最大較差と差異がなく、人口比定数との差異がある6選挙区の差はいずれも1人、いわゆる逆転現象は3通りで定数差はいずれも1人であったことから、投票価値の不平等は「一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものとはいえず」(=合理性を欠く程度には達していない、という意味)とし、公職選挙法15条8項に違反していたものとはいえないとしました。憲法違反の主張も退けています(裁判官全員一致)。
実務上のポイント
公職選挙法271条は、昭和41年1月1日現在において設けられている都道府県議会議員の選挙区について、人口が議員1人当たりの人口の半数に達しなくなった場合でも、当分の間、当該区域をもって1選挙区を設けることができると定めています。本判決は、この特例選挙区の存置と、同法15条8項ただし書(特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる)を適用した定数配分を、いずれも都議会の裁量権の合理的な行使として是認した事例です。
2 知財高裁・職員個人宛ての警告書では町に対する商標法13条の2の警告と認められない(関ケ原検定)
- 裁判所:知的財産高等裁判所第3部
- 裁判年月日:令和8年10月8日(判決)
- 事件番号:令和8年(ネ)第10045号 商標権侵害による不法行為損害賠償請求控訴事件(原審:東京地方裁判所令和7年(ワ)第70146号)
- 結論(主文):「本件控訴をいずれも棄却する。」
事案の概要
商標権を有する控訴人が、商標の登録出願後に警告書を送付したにもかかわらず、被控訴人ら(関ケ原町、被控訴人Y2及び被控訴人Y3)と町長である一審被告Y1が無断で商標を使用したと主張し、差止め等とともに、商標法13条の2第1項に基づき損失に相当する額105万円等の支払を求めた事案です。原審は請求をいずれも棄却し、控訴人は、被控訴人らに対する金銭請求の一部のみを不服として控訴しました(控訴の趣旨は、連帯して20万円等の支払)。
判断の要旨
判決は、本件警告書の名宛人は被控訴人Y2と被控訴人Y3であり、同人らの対応次第では町の代表者に通知をする旨等の記載があることから、本件警告書が町ないしその代表者に対し警告をする趣旨のものとは認められず、商標法13条の2の要件を満たさないとしました。
また、同条は出願後、商標設定登録前の使用に基づく損失についての請求権を定めたものであるから登録後の使用には適用がなく、登録後の使用の事実も証拠上認められないとしました。同じ警告書に端を発した著作権侵害に基づく別訴(請求一部認容)と結論が異なっても、請求の根拠法条が異なる以上問題はないとしています。
実務上のポイント
商標法13条の2第1項は、商標登録出願人が「当該出願に係る内容を記載した書面を提示して警告をしたとき」に、警告後設定登録前の使用者に対し当該使用により生じた業務上の損失に相当する額の金銭の支払を請求できると定め、同条2項により、この請求権は設定の登録があった後でなければ行使できません。本判決は、自治体の事業で使用された事案で、職員個人を名宛人とした警告書が町に対する警告と認められなかった事例として、警告書の名宛人と記載内容の検討に参考になります。
3 東京地裁・学校法人の建築アドバイザー報酬への上乗せによる背任で2名に執行猶予付き判決
- 裁判所:東京地方裁判所刑事第17部
- 裁判年月日:令和8年9月14日(宣告)
- 事件番号:令和7年刑(わ)第369号 背任被告事件
- 結論(主文):「被告人両名をそれぞれ懲役2年6月に処する。」「被告人両名に対し、この裁判が確定した日から5年間、それぞれその刑の執行を猶予する。」(懲役刑に対する執行猶予。求刑は被告人両名につき懲役2年6月)
事案の概要
学校法人甲の経営統括部次長等であった被告人A、一級建築士で学校法人甲の非常勤嘱託等であった被告人Bが、副理事長又は理事長等であった共犯者Cと共謀の上、Cの利得分等を上乗せした建築アドバイザー業務報酬を被告人Bに支払う旨を理事会に決議させるなどして、学校法人甲に無用な支出をさせたと認定された事案です。損害額は、新校舎棟に係る第1の事実で合計約1億1690万42円、新病棟に係る第2の事実で合計約1億6610万3340円とされ、量刑の理由では合計2億8000万円超とされています。
判断の要旨
判決は、計画的かつ巧妙で悪質な犯行であり被害結果は重大であるとしつつ、被告人AはCに従属的立場にあり本件各犯行による経済的利得を一切得ておらず、学校法人甲から民事上の責任を追及しない旨の合意を得ていること、被告人Bは2000万円超の利得を得ているものの、学校法人甲の損失を防ぐ任務を有していたわけではなく従属的立場にあったこと、一級建築士の免許を取り消される見込みであることなどを考慮し、両名の刑の執行を猶予しました。
実務上のポイント
法人の役員の影響力を背景に、外部委託報酬の上乗せという形で資金を流出させた背任事件の量刑事例です。上乗せ分の受領役となった者についても、任務を有していなかった点や従属的立場が量刑上考慮されています。
4 知財高裁・リチウム二次電池用正極活物質の特許取消決定を維持(新規性)
- 裁判所:知的財産高等裁判所第3部
- 裁判年月日:令和8年10月8日(判決)
- 事件番号:令和7年(行ケ)第10104号 特許取消決定取消請求事件
- 結論(主文):「原告の請求を棄却する。」
事案の概要
発明の名称を「正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池」とする特許(特許第7282854号)について、特許異議の申立てがされ、特許庁が令和7年6月19日、訂正を認めた上で請求項1、4、7、9ないし11に係る特許を取り消す決定をしたため、特許権者である原告(大韓民国の法人)がその取消しを求めた事案です。取消理由は、本件各発明が引用例1(特開2017-134996号公報)に記載された発明であるから新規性を欠くというものです。
判断の要旨
判決は、原告が主張する取消事由はいずれも理由がないとして請求を棄却しました。例えば、本件発明4の化学式1に該当する部分は、引用発明において母材とタングステン及びリチウムを含む化合物とが相互拡散した正極活物質の一部に存在するといえるとし、本件明細書等には第2複合酸化物の正極活物質における位置的及び量的規定はされていないことも指摘しています。熱履歴の違いにより引用発明には所定の結晶系が生じないとする原告の主張も採用しませんでした。
実務上のポイント
組成や結晶構造で特定した材料発明について、明細書に位置的・量的な規定がない構成は、先行技術の材料の一部に存在するといえれば新規性が否定され得ることを示した事例です。
出典
- https://www.courts.go.jp/hanrei/97191/detail2/index.html
- https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97191.pdf
- https://www.courts.go.jp/hanrei/97192/detail8/index.html
- https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97192.pdf
- https://www.courts.go.jp/hanrei/97189/detail4/index.html
- https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97189.pdf
- https://www.courts.go.jp/hanrei/97180/detail8/index.html
- https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97180.pdf

