【判例速報】知財高裁・セガ対LINEヤフーのゲーム特許侵害訴訟(控訴棄却)ほか計3件(2026年10月18日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの3件を取り上げます(インターネット関連のものとして、オンラインゲームの課金アイテムに関する特許事件と、オンラインカジノでの常習賭博を含む刑事事件があります)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。

1 知財高裁・ゲーム内の有料・無料アイテムと特許侵害(セガ対LINEヤフー)

  • 裁判所:知的財産高等裁判所第2部
  • 裁判年月日:令和8年8月31日判決
  • 事件番号:令和7年(ネ)第10082号 損害賠償請求控訴事件(原審:東京地方裁判所令和6年(ワ)第70223号)

事案の概要:控訴人株式会社セガ(原告)が、被控訴人LINEヤフー株式会社(被告)に対し、被告のゲーム「LINE:ディズニーツムツム」に係る被告ゲームシステム及び被告ゲームプログラムが、原告の特許2件(特許第6143141号「ゲームシステム及びゲームプログラム」、特許第5622184号「ゲーム装置」)の技術的範囲に属するなどと主張して、1億円及び遅延損害金等の支払を求めた事案(一部請求)です。原審は請求をいずれも棄却しました。

判断の要旨:主文は「本件控訴を棄却する。」です。

  • 本件発明1について、「第1の仮想アイテムの数量」は「購入手続を行うことでユーザに付与される遊技価値アイテムの個数、分量」、「第2の仮想アイテムの数量」は「ゲームの実行によりユーザに付与される遊技価値アイテムの個数、分量」と解釈しました。そのうえで、被告ゲームシステムは、購入ルビー(無料ルビー)とゲーム実行ルビーを「合算した数量を、無料ルビーの総量として表示する構成であり、「第2の仮想アイテムの数量」を記憶する手段を備えない」として、構成要件1B及び1Cの充足を否定しました。控訴審で追加された均等侵害の主張も、相違点は本件発明1の本質的部分であるとして、第1要件を充足しないとしました。
  • 本件発明2について、原判決と異なり、被告ゲームプログラムは本件発明2の構成要件を充足するとしました。しかし、乙6発明3及び乙39発明のそれぞれについて、周知技術を適用する動機付けがあり、同一種類のアイテムの累計獲得数に応じてパラメータを上昇(変更)・向上させる構成とすることは当業者において容易に想到し得たとして、本件発明2には進歩性欠如の無効事由があるとした原判決の判断を、補正のうえ引用して維持しました。乙39文献は、「クローズドβテスト」に係るゲームを紹介するウェブサイトの記事で、βテストでは実装されていない機能が記載されていたものですが、判決は、特許法29条1項3号の発明は進歩性の判断の基礎となるものであるから、これに接した当業者が特許出願時の技術水準に基づいてその技術的事項を実施し得る程度に技術的思想が開示されていれば、同号の「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」に当たるとし、乙39文献に記載された構成を引用発明として認定しました。

実務上のポイント:有料アイテムと無料アイテムを区別して管理するゲームの課金設計について、請求項の「数量」の文言解釈と被告システムの実装(どの数量を記憶しているか)が勝敗を分けた事例です。また、正式リリース前のサービスを紹介するウェブ記事に書かれた未実装の機能が、進歩性判断の引用例とされた点も参考になります。

2 秋田地裁・オンラインカジノでの常習賭博と共益費の横領(簡易裁判所判事)

  • 裁判所:秋田地方裁判所刑事部
  • 裁判年月日:令和8年7月23日判決
  • 事件番号:令和8年(わ)第33号 常習賭博、業務上横領、有印私文書偽造及び同行使被告事件

事案の概要:被告人が、①令和5年4月7日から同年9月20日までの間、多数回にわたり、自己のスマートフォンを使用するなどしてオンラインカジノサイトに接続し、現金に交換可能な同サイト内のポイントを賭けて「バカラ」と称する賭博をし(常習賭博)、②国家公務員合同宿舎の居住者により組織された組合の管理当番として管理していた同組合の口座から払い戻した現金のうち、合計278万5200円を着服し(業務上横領)、③その発覚を免れる目的で、預金取引明細表を撮影した画像データから払戻しの記録等を削除するなどして印刷し、同明細表1通を偽造したうえ、そのPDFデータを後任の管理当番に電子送信して閲覧させた(有印私文書偽造・同行使)事案です。判決の「量刑の事情」によれば、被告人は簡易裁判所判事でした。

判断の要旨:主文は「被告人を懲役3年に処する。」「この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。」です(懲役刑に4年間の執行猶予。求刑は懲役3年)。判決は、被告人が「法令の遵守を特に強く求められる立場にあった以上、その信頼に反した点で批判を免れず、責任が加重されることも已むを得ない」とする一方、「一連の犯行に職業上の地位や権限を悪用した要素は見出し難いから、その程度には一定の限界がある」としました。横領の被害全額の弁償等の有利な事情も総合し、刑の執行を猶予しつつ、その期間は「標準より長期に設定することが相当」としました。

実務上のポイント:スマートフォンからオンラインカジノサイトに接続して行った賭博が、常習賭博として処罰された事例です。また、偽造した明細表のPDFデータを電子送信して相手方のパソコン画面に表示させ閲覧させた行為が、偽造文書の行使として認定されています。

3 東京地裁・「新小平クリニック」と「新小平駅前クリニック」(不正競争・請求棄却)

  • 裁判所:東京地方裁判所民事第47部
  • 裁判年月日:令和8年8月7日判決
  • 事件番号:令和7年(ワ)第70231号 不正競争行為差止請求事件

事案の概要:「新小平クリニック」という名称の診療所を経営する原告(医療法人社団)が、「新小平駅前クリニック」という名称の診療所を経営する被告(医療法人社団)に対し、被告表示の使用が不正競争防止法2条1項1号の不正競争(混同惹起行為)に当たるとして、同法3条1項に基づき被告表示の使用の差止めを求めた事案です。

判断の要旨:主文は「原告の請求を棄却する。」です。判決は、「新小平」は診療所の所在地を示すもの、「クリニック」は診療所を表す一般的な名称で、いずれも格別の識別力がなく、「駅前」についても格別の識別力は認められないとしました。原告表示が新小平駅周辺の地域で一定程度の知名度を有することは否定し難いものの、原告が提出したオンライン調査の報告書でも認知度は約2、3割にとどまるとし、表示全体を一体として比べると、外観、称呼、観念のいずれにおいても類似しないとしました。混同のおそれについても、同報告書で系列病院(分院)と思うと回答した数がいずれも100人未満であることや、原告が挙げた取り違えや問合せの事例が約13か月間で35件であることから、認めませんでした。判決は、調査のサンプル数が小平市の人口や新小平駅の平均乗車人員(約1万人/日)に照らして偏りがなく十分であるか疑問の余地があることや、Q3では約90%、Q5では約80%の回答者が系列病院(分院)ではない、又は分からない・判断できないと回答していることも指摘しています。周知性及び同法19条1項1号の適用除外については、判断するまでもないとしています。

実務上のポイント:地名と普通名称を組み合わせた名称について、類似性を否定した事例です。混同のおそれの立証にオンラインのアンケート調査を用いる場合、サンプル数の偏り・十分性や、否定・不明の回答の割合まで評価されることが分かります。

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。