【判例速報】最高裁・猪苗代湖プレジャーボート事故で無罪の控訴審判決を破棄ほか計5件(2026年10月17日)
裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの5件を取り上げます(インターネット関連分野に直接該当するものは0件です。ただし2件目は、アプリ上でトレーディングカードを抽選するシステムの特許に関する事案です)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。
1 最高裁・猪苗代湖のプレジャーボート事故で無罪とした控訴審判決を破棄(業務上過失致死傷)
- 裁判所:最高裁判所第二小法廷
- 裁判年月日:令和8年10月16日(判決)
- 事件番号:令和7年(あ)第137号 業務上過失致死傷被告事件
- 主文:「原判決を破棄する。」「本件控訴を棄却する。」
事案の概要
プレジャーモーターボートの船長であった被告人が、令和2年9月6日、猪苗代湖上を時速約15ないし20kmで航行中、ザップボードに乗るためにライフジャケットを着用して湖上に浮かんでいた被害者らに気付かず、回転中のプロペラを接触させ、被害者1名(当時8歳)を死亡させ、2名(当時35歳・当時8歳)に傷害を負わせたとして起訴された事案です。第1審判決は過失を認定し、被告人を「禁錮2年に処した」のに対し、原判決(控訴審)は、被害者らが死角に入るまでに人として発見可能であったとはいえないとして事実誤認を理由に第1審判決を破棄し、無罪を言い渡しました。
判断の要旨
最高裁は、検察官の上告趣意は刑訴法405条の上告理由に当たらないとしつつ、職権で調査し、原判決は刑訴法411条1号により破棄を免れないとしました。控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには、第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要であるとの最高裁平成24年2月13日第一小法廷判決を引用したうえで、原判決は、2台の携帯電話機の位置情報の一部をつなげて航路を示唆するとした点で「論理則に反し、是認できない」とし、また、マネキン発見地点や停泊地点といった個別の地点・時点で発見できなかった可能性を指摘するにとどまり、一連の過程で被告人が被害者らを浮遊物として視認できたとする第1審判決の認定が不合理であることを具体的に示したものとは評価できないと判断しました。そのうえで、「禁錮2年に処した判断を含め、第1審判決を維持するのが相当」として被告人の控訴を棄却しました(裁判官全員一致)。
実務上のポイント
控訴審が事実誤認を理由に第1審判決を覆す場合には、第1審の判断構造全体を踏まえ、その認定の不合理性を具体的に示す必要があることを、間接事実の推認力の評価(個別の地点・時点に分断して検討した点)に即して示した事例です。
2 知財高裁・トレーディングカード抽選システムの特許と補正の新規事項追加(請求棄却)
- 裁判所:知的財産高等裁判所第1部
- 裁判年月日:令和8年10月8日(判決)
- 事件番号:令和8年(行ケ)第10019号 特許取消決定取消請求事件
- 主文:「原告の請求を棄却する。」「訴訟費用は原告の負担とする。」
事案の概要
原告は、発明の名称を「カードシステム」とする特許(特許第7472179号)の特許権者です。この発明は、管理サーバがカード詰め合わせ在庫からトレーディングカードを抽選し、ユーザ側情報端末に当選情報を送信し、ユーザが当選カードを取得するか否かを選択するというものです。審査段階の補正(令和6年3月15日提出の手続補正書)により、ユーザが取得を選択したカード・選択しなかったカードについて「データを詰め合わせ設定として残らないようにする」処理が特許請求の範囲に加えられていました。特許異議の申立て(異議2024-700984号事件)を受け、特許庁は令和8年2月9日、訂正を認めたうえで請求項1、2に係る特許を取り消す決定をし、原告がその取消しを求めました。
判断の要旨
知財高裁は、新規事項の追加に関する取消事由のみを判断しました。特許請求の範囲の記載によれば、上記の「データを詰め合わせ設定として残らないようにする」処理は、ユーザが当選カードを取得するか否かを選択した後に行われることが明らかである一方、当初明細書等では、この処理は一貫して抽選結果の表示及びユーザの選択よりも前に行われるものとして記載されており、選択後に行われる旨の記載は見当たらないとしました。「物」の発明なので処理の順序に拘泥すべきでないとの原告の主張も、特許請求の範囲が処理の手順を特定している以上、「処理の順序を問わないとすることはできない」として退けました。そして、本件補正は特許法17条の2第3項に違反し、同法114条2項、113条1号により本件特許は取消しを免れないから、進歩性・サポート要件に関する取消事由の「理由の有無は、本件決定の結論に影響を及ぼさない」として、請求を棄却しました。
実務上のポイント
アプリ・サーバ間の処理を請求項に書き込む場合、請求項上の処理の時機が明細書に記載された処理の時機と異なると、「物」の発明であっても新規事項の追加とされ得ることを示した事例です。なお、特許庁の決定は、進歩性の判断でYouTube動画を副引例として用いていましたが、判決はこの点を判断していません。
3 大阪高裁・略式命令を発した裁判官が移送後の正式裁判で判決(除斥・破棄差戻し)
- 裁判所:大阪高等裁判所第1刑事部
- 裁判年月日:令和8年9月17日(判決)
- 事件番号:令和8年(う)第455号 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年兵庫県条例第66号)違反被告事件
- 主文:「原判決を破棄する。」「本件を神戸地方裁判所に差し戻す。」
事案の概要
豊岡簡易裁判所の裁判官が令和6年12月6日に略式命令を発し、被告人が同月20日に正式裁判を請求しました。令和7年1月21日、事件は刑訴法332条により神戸地方裁判所豊岡支部に移送されましたが、略式命令を発した裁判官と同一の裁判官が、同支部の裁判官として第1回公判期日(令和7年3月18日)から第7回公判期日(令和8年3月10日)まで審理を担当し、第8回公判期日(令和8年3月24日)に原判決を言い渡しました。
判断の要旨
原判決をした裁判官には、略式命令に関与したという刑訴法20条7号本文の除斥原因があり、正式裁判についての職務の執行から除斥されることは明らかであるとして、「法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと」(刑訴法377条2号)に当たると判断し、同法397条1項、377条2号により原判決を破棄し、同法400条本文により神戸地方裁判所に差し戻しました。
実務上のポイント
略式命令に対する正式裁判の請求後、事件が簡易裁判所から地方裁判所(支部)に移送された場合でも、略式命令を発した裁判官が担当していないかを弁護人として確認する必要があることを示す事例です。
4 静岡地裁・自治会の会合中の公民館での殺人(拘禁刑16年)
- 裁判所:静岡地方裁判所刑事第1部
- 裁判年月日:令和8年9月17日(宣告)
- 事件番号:令和7年(わ)第514号 殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
- 主文:「被告人を拘禁刑16年に処する。」「未決勾留日数中200日をその刑に算入する。」押収してあるサバイバルナイフ1本及び鞘付きナイフ1本を「没収する。」「訴訟費用は被告人の負担とする。」
事案の概要
被告人が、令和7年8月2日午後7時25分頃、自治会の会合が行われていた静岡市内の公民館2階大ホールにおいて、被害者(当時78歳)の背部をサバイバルナイフ(刃体の長さ約12.5センチメートル)で4回突き刺して殺害し、併せて同ナイフ及び鞘付きナイフ(刃体の長さ約24.7センチメートル)を携帯した事案です。
判断の要旨(量刑)
被告人の自閉症スペクトラム障害(ASD)の症状が犯行の動機の形成過程に強く影響しており、「被告人の責任非難を一定程度軽減させる」としつつ、逡巡を乗り越えて犯行に及ぶという手段を選択したのは被告人自身の意思決定によるもので「そこにASDの影響はなかった」と認定しました。求刑は拘禁刑18年・主文同旨の没収、弁護人の科刑意見は拘禁刑12年以下でした。
実務上のポイント
発達障害が動機形成に影響した事案で、動機形成過程への影響と犯行の意思決定への影響を区別して責任非難を評価した量刑例です。
5 鳥取地裁米子支部・包丁を用いた店舗強盗(拘禁刑5年)
- 裁判所:鳥取地方裁判所米子支部
- 裁判年月日:令和8年9月11日(宣告)
- 事件番号:令和8年(わ)第43号 建造物侵入、強盗、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
- 主文:「被告人を拘禁刑5年に処する。」「未決勾留日数中40日をその刑に算入する。」
事案の概要
被告人が、令和8年2月19日午後8時43分頃、鳥取県境港市内の店舗に侵入し、従業員(当時22歳)に包丁(刃体の長さ約21.5センチメートル)を突きつけて「金を出せ。」と脅迫し、現金189万円を強取するとともに、同包丁を携帯した事案です。
判断の要旨(量刑)
被害額189万円の全額が費消され被害弁償の見込みも立っていないこと、一定の計画性がうかがわれることなどを指摘しました。動機の背景にギャンブル依存症があるとしても、「責任非難を有意に減じる要素があるとはいえない」としたうえで、公訴事実を認め反省していること、社会復帰後の治療・自助施設入所が見込まれること、前科がないことなども考慮しました。求刑は拘禁刑6年でした。
実務上のポイント
ギャンブル依存症を背景とする強盗事件で、依存症の存在を責任非難の減少要素と認めなかった量刑例です。
出典
- 最高裁判所第二小法廷令和8年10月16日判決(令和7年(あ)第137号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97176/detail2/index.html/https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97176.pdf
- 知的財産高等裁判所令和8年10月8日判決(令和8年(行ケ)第10019号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97139/detail8/index.html/https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97139.pdf
- 大阪高等裁判所令和8年9月17日判決(令和8年(う)第455号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97171/detail4/index.html/https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97171.pdf
- 静岡地方裁判所令和8年9月17日判決(令和7年(わ)第514号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97172/detail4/index.html/https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97172.pdf
- 鳥取地方裁判所米子支部令和8年9月11日判決(令和8年(わ)第43号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97174/detail4/index.html/https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97174.pdf
- 裁判所ウェブサイト 裁判例検索(新着):https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search2?filter[recent]=1

