民法改正講義案5(保証3)-保証人に公正証書が必要な場合とは?-
例によって、個人が保証する場合の特則です。
3 事業資金の保証を個人がする場合は公正証書が必要
【第465条の6】
事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
(1)ひとこと解説
事業資金の保証を個人がする場合、保証・根保証問わず、公正証書で意思確認をしなければならないということになりました。
(2)詳細解説
事業資金の借り入れは、多額になりやすいので、特に厳格な意思確認を必要としたという意味です。また、1か月以内という期間制限を設けることで、忘れたころに保証契約が発動するということもなくなることになります。
たとえば、数年前に公正証書を作っておいて、お金が必要になったときに、その公正証書を使って保証人を立てて、お金を借りるなんて方法は取れないわけです。
つまり、旧法では、何も知らない人に、「絶対に迷惑かけないから、ハンコだけ捺して」といって、保証人欄にハンコを捺させ、後日、その保証人に請求が行くという悲劇が多発していたと聞きます。
そんな悲劇を防ぐべく、公証役場で、公証人からじっくり説明を聞いたうえでないと保証人にはなれないというのが、この条文の存在意義です。
しかし、公正証書に期間制限がないと、「今、借りる訳じゃないから、形だけ公正証書を作らせて」などといって公正証書を作らせ、ついでに、日付空欄の借用書の保証人欄にもハンコを捺させるなんてことが発生しかねません。
そうなると、忘れたころに保証人にさせられて、責任を負わされるという悲劇を防げません。そこで、公正証書に期間制限をつけたのでしょう。
(3)注意点
この条文は、一見、個人保証人に手厚い条文です。しかし、保証契約は、あくまでお金を貸す人と保証人が結ぶ契約です。お金を借りる人の契約とは別個です。
ここで、お金を貸す人の気持ちになってください。「どうせ公正証書を作るなら、お金を借りる人との契約書も公正証書にしておきたい。」と思いませんか?
(やや不正確ですが、)保証に限らず、金銭に関する契約書を公正証書にすると、裁判をせずに強制執行ができるようになります。「離婚の際に公正証書を作ると、養育費が強制執行しやすくなる」という話を聞いたことがある方は多いと思います。
つまり、お金を貸す契約書を公正証書にすると、将来、返済が滞ったとき、お金を貸す側は裁判をせずに強制執行できるようになります。これは、お金を貸す側から見れば大変便利です。お金を借りる側からすると辛いところです。
したがって、新法施行後は、公正証書化された契約書が続発し、強制執行が多くなるのではないかという懸念が指摘されています。
(4)補足
求償権が絡んでも同じです。求償権自体は、事業資金とはいえません。かといって、求償権の保証人に個人がなる際に、公正証書が不要となったらどうでしょうか。「いったん求償権を挟めば、公正証書はいらない」という、「保証2」でやったのと似たような状況が生まれます。したがって、そのような抜け穴をふさぐべく、似たような条文が置かれました。465条の8です。