民法改正講義案4(売買5)-契約締結時に履行不能が確定していたら?-
5 契約締結時、既に履行不能であっても、契約は無効にならない
【412条の2】
1 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
(1)ひとこと解説
契約成立時に履行不能だった場合でも、契約は有効であり、損害賠償請求も可能です。
(2)詳細解説
旧法では、契約成立時に履行不能状態だった場合、無効とされてきました。しかし、改正後は、いったん有効としたうえで、債務不履行の処理をすることになりました。つまり、契約成立時に履行不能であっても、買主は、損害賠償として、売主に履行利益を請求できる可能性があるのです。
(3)例
「売主は、静岡市において、東京の一戸建てを、買主に対し、1億円で売買する契約をした。売主は、買主が、直ちに1億5000万円で転売することを知っていた。しかし、契約締結1時間前、その一戸建ては売主の失火により全焼していた。」という事例を考えましょう。
旧法では、契約締結前に目的物が消失した以上、契約は無効とされます。そのうえで、代金の返還請求(不当利得が根拠となります。)しかできなかったのです。しかし、新法では、履行されていれば得られたはずの利益である5000万円もさらに請求できる可能性があるということになります。