【判例速報】東京高裁・一票の格差(衆院選無効請求)/福岡高裁・社会福祉法人の理事収賄ほか計5件(2026年8月10日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告の5件を取り上げます(うちインターネット関連分野に該当するものは0件)。

【注記1】裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、「昨日〜本日公開分」の厳密な特定はできません。裁判年月日ベースで直近の新着一覧(下級裁判所(速報)/新着統合/知的財産裁判例集)を確認し、当サイトの過去の「判例速報」記事と照合して未報告のものを抽出しています。
【注記2】下記5件はいずれも裁判所サイトの「判示事項」「裁判要旨」欄が空欄です。要約は判決文PDFの記載に基づいています。
【注記3】本日時点で、インターネット関連分野(発信者情報開示、プロバイダ責任制限法/情報流通プラットフォーム対処法、名誉毀損・プライバシー侵害、ネット上の著作権侵害等)に該当する未報告の新着裁判例はありませんでした。

1 東京高裁 令和8年6月12日判決(令和8(行ケ)2)/選挙無効請求事件

  • 事案:令和8年2月8日施行の衆議院議員総選挙・小選挙区選出議員選挙(東京都第5区、第8区、第28区、第30区)について、定数配分および選挙区割りに関する公職選挙法の規定が憲法に違反し無効であるとして、各選挙区における選挙の無効を求めた事案。
  • 判断:請求をいずれも棄却。選挙当日の較差は最少の鳥取県第1区と最多の北海道第3区との間で1対2.097、較差が2倍以上となる選挙区は16。本件選挙区割りは「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできない」とし、国会の裁量の範囲内で合理性があると判断(事情判決の法理の適用には至らず)。
  • 実務上のポイント:令和8年衆院選をめぐる一票の格差訴訟で、東京高裁が違憲状態を否定した事例。較差2.097倍という水準の評価について先例価値があります。
  • 出典裁判例詳細ページ判決文PDF

2 東京高裁 令和8年6月12日判決(令和8(行ケ)5)/選挙無効請求事件

  • 事案:同じく令和8年2月8日施行の衆議院議員総選挙のうち比例代表選出議員選挙(東京都選挙区)について、比例代表選挙の仕組みに関する公職選挙法の規定が憲法に違反し無効であるとして選挙の無効を求めた事案。
  • 判断:請求をいずれも棄却。人口が最も少ない四国選挙区(61万818人)と最も多い北関東選挙区(72万494人)との較差は1対1.187。投票価値の平等は選挙制度決定における唯一絶対の基準ではなく、地域的要素など他の政策目的と「調和的に実現されるべき」ものであるとして、国会の広範な裁量を認め、本件較差は裁量権の限界を超えていないと判断。
  • 実務上のポイント:小選挙区だけでなく比例代表ブロック間の較差を正面から争った事例。「投票価値の平等は唯一絶対の基準ではない」とする判断枠組みは、選挙訴訟における主張整理の参考になります。
  • 出典裁判例詳細ページ判決文PDF

3 福岡高裁 令和8年6月25日判決(令和7(う)330)/社会福祉法違反(理事収賄)控訴事件

  • 原審:福岡地方裁判所 令和5(わ)1233
  • 事案:社会福祉法人の理事長であった被告人が、Aから「所定の手続を履践しないまま、理事3名をA指定者に変更するよう権限を行使してほしい」との請託を受けてこれを承諾し、対価として現金1億3400万円の支払いを約束され9400万円を受領したとして、理事収賄罪に問われた事件の控訴審。
  • 判断:控訴棄却。理事収賄罪にいう「不正の請託」の「不正」とは違法を意味し、法令違反のほか定款等の重要事項違背も含むと判示。理事長は忠実義務を負っており、手続を履践しないよう求める依頼はこの義務に違反するとしました。事実認定としても、例外規定の適用は当時「非現実的」であり、授受された金員は「役員変更に伴う業務報酬」と明記されていて手続不履践と不可分の対価性があると認め、原判決を是認。
  • 実務上のポイント:社会福祉法人のガバナンス・役員変更をめぐる刑事責任の射程を示す判断です。「不正の請託」に定款等の重要事項違背を含めた点は、法人役員に関する贈収賄類型一般の解釈にも参考となります。
  • 出典裁判例詳細ページ判決文PDF

4 横浜地裁 令和8年6月18日判決(令和8(わ)368)/日米地位協定実施刑事特別法違反、偽造無印私文書行使

  • 事案:被告人が、令和7年10月22日および同年11月6日に、正当な理由がないのに米海軍横須賀基地内へ同軍関係者を装って立ち入り、さらに同日、警察署において自己の顔写真が印刷されたアメリカ合衆国国防総省作成名義の偽造身分証明書1通を真正に成立したもののように装って提出・行使したとされる事案。
  • 判断:拘禁刑10月、裁判確定の日から3年間執行猶予。犯行の悪質性から刑事責任は軽くないとしつつ、事実を認めて反省していること、妻による指導監督の約束があること、前科前歴がないことを酌量。
  • 実務上のポイント:改正刑法施行後の「拘禁刑」宣告例。偽造身分証明書の行使(偽造無印私文書行使)と基地への不正立入りが併合された量刑事例として参考になります。
  • 出典裁判例詳細ページ判決文PDF

5 静岡地裁沼津支部 令和8年7月9日判決(令和8(わ)112)/廃棄物処理法違反

  • 事案:宗教法人の総代である被告人が、令和3年9月に静岡県知事から「産業廃棄物の撤去と流出防止対策を令和4年3月末までに実施すること」との措置命令を受けたにもかかわらず、期限までにこれを履行しなかったとされる事案。
  • 判断:罰金50万円(未決勾留日数のうち1日を7000円に換算して算入)。措置命令受領後も再三の督促に応じず履行への真摯な努力が認められないこと、前科9犯で法軽視の態度が明らかであることを重くみる一方、流出した廃棄物による生活環境への悪影響が比較的小さいこと、被告人が87歳と高齢であること、既に相当期間勾留されていることを考慮。
  • 実務上のポイント:廃棄物処理法19条の5第1項1号に基づく措置命令の不履行が刑事罰として問われた事例。行政上の措置命令に応じないことが直ちに刑事責任に結びつくことを示しています。
  • 出典裁判例詳細ページ判決文PDF

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。