【判例速報】福岡高裁・松橋事件国家賠償(違法取調べ・検察官の証拠不開示)(2026年8月14日)

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1. 福岡高等裁判所 第5民事部 令和8年7月27日判決

事件番号:令和7(ネ)333 / 事件名:松橋事件国家賠償請求控訴事件
原審:熊本地方裁判所 令和2(ワ)766

事案の概要

昭和60年1月に熊本県で発生した殺人事件について、自白に基づき有罪判決を受けて服役した亡A(いわゆる松橋事件)が、その後の再審で無罪判決を受けました。亡Aの相続人である一審原告らが、熊本県警察官による違法な取調べ及び検察官による違法な公訴追行によって損害を被ったとして、国及び熊本県に対し国家賠償を求めた事案の控訴審です。

判断の要旨

原判決中、熊本県(一審被告県)に対する請求を棄却した部分を取り消し、同県に対し、国と連帯して一審原告らそれぞれに1190万5831円及びこれに対する平成31年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を命じました。一審被告国の控訴は棄却されています(国に対する原判決の認容部分を維持)。

理由の核心は次の2点です。

  • 警察官の取調べの違法性──計9日・合計約81時間に及ぶ取調べは不当に長時間であり、特に一部の日については「任意捜査として許容される時間の限度を超え」ると判断されました。ポリグラフ検査後に予断に基づく誘導的な追及がされたこと、自白前に黙秘権告知を経た調書が存在しないことなども指摘されています。
  • 検察官の公訴追行の違法性──被告人の犯人性に合理的な疑いを生じさせる証拠(押収された本件袖片、及び血液の付着が認められない旨の鑑定書。他の布片5枚とつなぎ合わせると完全なスポーツシャツの形となり、焼却されたはずの布が現存することを示すもの)について、確定審では証拠調べの請求が一切されませんでした。判決は、検察官はこのような証拠を明らかにした上で公訴を取り消し又は無罪論告をする義務を負うとし、その違反は「意図的であれば犯罪的行為であり、過失でも甚だしい職務怠慢」であると指摘しています。

因果関係については、違法な取調べにより得られた自白が実質的に唯一の証拠として有罪判決に至ったこと、検察官が本件袖片の存在を明らかにしていれば無罪判決がされたはずであることが認定されました。

実務上のポイント

再審無罪後の国家賠償請求において、①警察官の取調べの違法性と②検察官の証拠不開示(公訴追行の違法性)の双方を正面から認め、原審が棄却した県(警察)の責任を控訴審で追加的に認めた事例です。検察官の証拠開示に関する義務違反を国家賠償法1条1項の違法と構成する際の判断枠組みとして、参照価値が高いと考えられます。インターネット関連分野への直接の影響はありません。

留保(未確認事項)

  • 裁判例詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」はいずれも空欄であり、上記要旨は判決文PDFの記載に基づいています。
  • 原審の裁判年月日、再審無罪判決の確定年月日、上告の有無は、公表資料上確認できず未確認です。

出典

インターネット関連分野について

本日新たに報告すべき、発信者情報開示、プロバイダ責任制限法(情報流通プラットフォーム対処法)、名誉毀損・プライバシー侵害、ネット上の著作権・肖像権侵害、個人情報保護、電子商取引に関する新着裁判例はありませんでした。令和8年7月裁判分の知的財産高等裁判所・東京地方裁判所の関連裁判例は、当サイトの過去の速報で既にお伝えしています。

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。