相続法が変わります7

150万円までは裁判所の関与なく払戻を受けられます

 【第909条の2】
  各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分のlに第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。) については、単独で、その権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。 

1 ひとこと解説

法定相続分の3分の1か150万円のいずれか小さい額については、裁判所の関与なく、銀行に払戻を請求できます。

2 例

Bさんは、Aさんと結婚していました。AさんにはCという子どもがいました。Aさんは、ゆうちょ銀行に貯金1000万円を遺して死亡しました。

この場合、Bさんは、Aさん名義のゆうちょ銀行口座から、当面の生活費として、150万円の払い戻しを受けることができます(Bさんの法定相続分は、500万円。その3分の1は約166万円。166万>150万円なので、150万円が上限となる。)

なお、その後、Aさんの子Cが、さらに、ゆうちょ銀行から150万円の払い戻しを受けることはできません。

3 注意点

 ア 法定相続人1人につき150万円までという意味ではないことに注意してください。一金融機関につき150万円までです。
※条文の趣旨からすると、全遺産のうち150万円までとなりそうです。しかし、金融機関からすれば、他の金融機関にいくらあるのか分からないので、このような形になっているのでしょう。仮に、「全遺産のうち150万円」とすると、A銀行からは上限75万円、B銀行からは上限75万円などとなり、相続人も、銀行も煩わしいだけです。

 イ 相続放棄をしようとしている場合、たとえ葬儀費用目的でも、909条の2に基づいて払い戻しをしない方が良いと思います。「相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」とあるため、単純承認とみなされかねないからです(私見)。

 ウ 保全処分ではないので、遺産分割の申立は不要です。