ハンコについて本気出して考えてみた2~ハンコは署名と異なる~

さて、前回、民事訴訟法228条4項をご紹介しました。

民事訴訟法第二百二十八条 4 私文書は、本人又はその代理人署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

これだけ見ると、「署名」と「押印」が並列に記載されています。なお、ここでいう「署名」とは、「手書きで氏名を書くこと」という意味です。

民事訴訟法228条4項だけを見る限り、名前を手書きで書くことと、ハンコは、同じ効力であるかのように読めます。

実は、前回説明を端折った箇所があります。

前回、民事訴訟法228条4項について「要するに、本人がハンコを捺していれば、『真正に成立したもの』だろうと思ってもらえるということです。」と御説明しました。

条文では「本人……の」とあるのに、説明文では「本人が」となっております。
ここが、民事訴訟法228条4項の厄介なところです。

実は、民事訴訟法228条4項でいう「本人……の」とは、「本人の意思に基づいて」という意味なのです。

たとえば、私が、自らの手で「浅井」という印影のハンコを捺せば、当然、「浅井本人の意思に基づいて」であり、「浅井本人……の」といえます。

さて、ここで「印影」という言葉が出て来ました。「印影」とは、ハンコを紙などに捺してできた跡のことを言います。この文章のアイコン画像(アイキャッチ画像)でいう、〇に印のことを印影といいます。

しかし、私以外の者が、「浅井」という印影のハンコを捺しても、「浅井本人の意思に基づいて」とはいえず、「浅井本人……の」ではならないので、民事訴訟法228条4項の適用はありません。

ここまで書くと、「当たり前ではないか。ハンコは誰でも作れるし。」と思われる方が大半でしょう。

ここで、ハンコの捺された書類だけしか見られない場合を想定してください。

仮に、「浅井」という印影のハンコが捺されていて、その場に私がいない場合、そのハンコが、私本人の意思で捺されたのか否か分かりません。
これでは、民事訴訟法228条4項が適用されるか否か分からないことになります。
民事訴訟法228条4項が適用されるか否か分からないということであれば、安心して取引ができません。

しかし、署名ならば、各人に筆跡というものがあります。筆跡を真似るのは、なかなか大変です。そのため、ハンコよりは、署名の方が信頼され、多用されるようになり、現在に至ります……という歴史になっていないのは、皆様も御承知のとおりです。

永年の間、ハンコが相当信用されてきたことは言うまでもありません。
なぜ、このようなことになったのでしょうか。

次回に続きます。