民法改正講義案9(詐害行為取消3)

3 詐害行為取消の効果は、債務者や全ての債権者にも及ぶ

【第425条】
詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。

(1)ひとこと解説

詐害行為取消判決が出た場合、債務者(お金を借りて、詐害行為をした人)はもちろん、全ての債権者に対して判決の効力が及びます。当たり前ではないかと思うかも知れません。しかし、旧法では、債務者には効力が及ばないとされていたのです。

(2)例

例を挙げた方が分かりやすいと思います。

AさんがBさんにお金を貸しました。さらに、Bさんは、DさんやEさんからもお金を借りました。後日、Bさんが無資力になりました。このままでは、Bさんは強制執行を受けかねません。そこで、Bさんは、強制執行を免れるため、Bの唯一の財産である甲不動産をCさんに譲渡しました。
AさんがCさんに対し、詐害行為取消請求訴訟を提起して勝訴したとします。この場合、「Cさんは、Bさんに甲不動産を返せ」という判決が出ます。

この判決の効果は、AさんとBさんに及ぶことはもちろん、Aさん以外であるDさんやEさんにも及ぶびます。つまり、Aさんを含むすべての債権者は、甲不動産をBさんのものとして差押ができることになります。

当たり前ではないかと思うかも知れません。旧法では、Bさんに効力が及ばないとされていたのです。そのため、権利関係が複雑になると指摘されていました。

(3)補足

詐害取消請求訴訟の効果が債務者に及ぶ以上、債務者にも、訴訟に参加する機会を与える必要があります。

【第424条の7】
1 詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
一 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え 受益者
二 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え その詐害行為取消請求の相手方である転得者

2 債権者は、詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

つまり、AさんがCさんに対し、詐害行為取消請求訴訟を提起した場合、Aさんは、Bさんにも「Cさんに訴訟を起こしたから、言いたいことがあれば、裁判所に来てください」と伝える必要があります。