交通事故案件の肝1~お医者様のところに通ってください~

弁護士になってつくづく思うのは、交通事故の多さです。私の友人の何人かも交通事故に遭っています。しかも、過失割合が100:0とか、90:10など、ほぼ避けようのない事故に遭っている友人が多いです。

つまり、どんなに注意しても交通事故は避けられないということです。そこで、交通事故に遭った際に、気を付けておいていただきたいことを、何回かに分けて書いていきたいと思います。

今回は、「交通事故に遭ったら、お医者様のところに通っていただきたい。」ということです。

交通事故に遭うと、まずは、病院に担ぎ込まれます。当然、医師が看てくださいます。問題はその後です。病院が遠いからといって、接骨院・整骨院に通ってしまう方が意外と多いです。
保険会社も、「健康保険が利く整骨院・接骨院なら、数か月間の治療費は保険で支払いますよ。」と言ってくれることが多いです。

しかし、整骨院・接骨院に通うのは、リスクがあります。
整骨院・接骨院に通っている期間は、通院したという解釈をされないことがあるのです。
以下、詳しく述べます。

基本的に、交通事故によるケガの治療のために通院した期間については、損害賠償の対象になります。
しかし、交通事故による通院と認められるためには、「必要性」と「相当性」が認められなければなりません。
そして、現状では、医師による治療に限って「必要性」と「相当性」が認められるのが原則となっています。
逆にいえば、医師によらない治療は、「医業類似行為」と呼ばれ、「必要性」「相当性」を満たさないのが原則なのです。
ただし、医師の指示があれば、「医業類似行為」といえども、「必要性」「相当性」を満たすこともあります。

たとえば、交通事故に遭って何となく肩が痛いからといって、10分1000円のクイックマッサージに行ったとしても、「必要性」「相当性」がないとされてしまいます。クイックマッサージは、確かに、気分が良くなりますし、凝りもほぐれますが、ケガを治す力まではなく「医業類似行為」とされてしまうことは、皆様もご納得いただけると思います。

ただ、医業類似行為は、クイックマッサージに限りません。整骨院・接骨院も同じです。たとえ、健康保険が使えても、「医業類似行為」なのです。柔道整復師の先生が担当されたとしても、医師ではない以上「医業類似行為」です。

つまり、「医業類似行為」のところに通っても、交通事故で通院したという解釈をされないということになります。

では、交通事故で通院したという解釈をされない場合、どうなるのでしょうか。

①治療費が支払われないことがある。
②慰謝料に反映されないことがある。
③後遺障害認定で不利になることがある。
以下、ご説明いたします。

①治療費が支払われないことがある

そもそも、保険会社に黙って、整骨院・接骨院に行くと、治療費の支払いを拒否されることがあります。
ただ、事前に話をしておけば、先ほど申し上げたとおり、 「健康保険が利く整骨院・接骨院なら、数か月間の治療費は保険で支払いますよ。」 といってもらえることは多いです。

ただし、この「数か月」がネックです。保険会社は、だいたい事故後3か月を経過すると「そろそろ治療を打ち切りたいのですが……」と言ってきます。
このとき、ちゃんと医師のところに通っていれば、「まだ、お医者様が、通った方が良いとおっしゃっているので『必要性』『相当性』を満たすはず。」と反論できることが多いです。万一、治療費の支払いを一方的に打ち切られても、最悪、裁判をすれば請求が認められる可能性があります。

しかし、整骨院・接骨院に通っていると、「『医業類似行為』を特別に認めただけですけどね……」などと言われて、一方的に治療費を打ち切られることも少なくありません。また、裁判で争っても、請求が認められるか否かは微妙なところです。

②慰謝料に反映されないことがある

交通事故で通院した場合、期間の長短に応じて、治療費とは別に慰謝料を請求できます。
普通、病院に好きこのんで行く人はいないので、通院自体が精神的苦痛と評価されるからです。

しかし、「医業類似行為」を受けている期間については、交通事故で通院したとは解釈されず、慰謝料の期間に反映されないことがあるのです。
たとえば、交通事故に遭って初めの2週間は医師の治療を受けたものの、そのあとの3か月間は「医業類似行為」を受けたとします。
この場合、初めの2週間に限り慰謝料に反映され、残りの3か月は慰謝料に反映されないことがあります。2週間と3か月では、慰謝料の金額で5倍以上の差になることがあります。

③後遺障害認定で不利になることがある

後遺障害は、これ以上治療しても治らない状態をいいます。たとえば、眼球が傷ついてしまって失明したとか、体の一部を失ったとか、顔に痕が残ってしまったという状態です。
あるいは、レントゲンを撮ったら骨が変形していているとか、MRIを撮ったら首にヘルニアが確認できたとかも、後遺障害になりやすいです(本当に交通事故から発生したかどうか争われることもあるので、レントゲンやMRIに出ていても100%後遺障害になるわけではありません。)。

しかし、レントゲン、CT、MRIなどの画像に映らないけど痛みが残るということは、珍しくありません。むち打ち症などはその典型です。治療しても痛みが引かないのであるから、後遺障害だと言いたいのが人情です。しかし、画像に映らないということは、証拠がないということです。痛みは、主観的なものなので証拠になりません。

さて、この場合、どうなるのでしょうか。証拠がないからといって、すべてについて後遺障害ではないと判断されたら、痛みで苦しんでいる被害者の方に酷な結果となります。しかし、痛いといっている人全てに後遺障害を認定したら、保険金支出が膨大になり、ひいては、我々の保険料負担が増します。

ということで、別の指標を考えるしかありません。その「別の指標」の1つが、通院回数なのです。通院回数が多いほど、後遺障害認定されやすいです(ただし、不必要な通院をしても「必要性」なしなので、無意味です。)。

しかし、この通院回数のカウントについては、「医業類似行為」は、含まれないことが多いです。
ちなみに、保険会社が「医業類似行為を受けても良いですよ。」と言っている期間であっても、後遺障害認定には反映されづらい印象を受けます。

いかがでしたでしょうか。今は、整骨院・接骨院が、「交通事故にも対応します。」と宣伝していることが多いです。
しかし、交通事故で、整骨院・接骨院に通うということは、以上のようなリスクをはらむのです。

もし、整骨院・接骨院に通う場合には、「この先生なら、きっと私のケガを後遺症なしに治療してくれる。あとで慰謝料をもらっても後遺症が出たら意味がないので、治すことに賭ける。もし、治らずに後遺症が出てしまったら、慰謝料がもらえなくても仕方ない。」というくらいの覚悟をもって通ってください。