民法改正講義案8(代理3)

3 複合型表見代理についても条文ができた

【109条】
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
【112条2】
他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う 。

(1)ひとこと解説

いわゆる複合型表見代理にも条文ができました。

(2)そもそも表見代理とは

ア 解説

単純に申し上げると、「表見代理」とは、代理権がない人が代理人として行動することを言います。

「無権代理だから無効(効果不帰属)に決まっているではないか。」と思うかも知れません。しかし、全ての表見代理が無効となると、人々は代理制度自体を敬遠してしまい、代理制度自体が成り立たなくなります。そうなると、取引が円滑に行えなくなるのです。

そこで、一定の場合には、表見代理も有効(効果帰属)とするのです。単なる表見代理については、旧法にも定めがあります(旧法109条、110条、112条等)。

イ 例1

たとえば、Aさんが、本当は代理権を与えていないのに、Bさんに甲土地の売却の委任状だけをあげたとします。この場合、法律上、委任状はただの紙切れであり、BさんはAさんの代理人とはいえません。しかし、Bさんが委任状を使ってAさんの代理人として土地を売ってきた場合、一定の条件を満たすと、Aさんは、甲土地を手放さなくてはなりません。

ウ 例2

たとえば、Aさんが、Bさんに甲土地の所有権保存登記(Aさんに所有権があることを示す登記だと思ってください。)の代理権だけをあげて、その委任状もあげたとします。しかし、Bさんが委任状を勝手に売却の委任状に書き換えてAさんの代理人として土地を売ってきた場合、一定の条件を満たすと、Aさんは、甲土地を手放さなくてはなりません。

 

(3)複合型表見代理とは

一言でいうと、上記の例1と例2が合わさった場合などを言います。

Aさんが、本当は登記の代理権すら与えていないのに、Bさんに登記の委任状を与えたとします。この場合、登記の委任状自体がただの紙切れです。

しかし、Bさんが登記の委任状を書き換えて、売買の委任状にして、土地を売ってきたとします。

この場合、新法109条2項が適用されるのです。旧法では、条文がなかったので、二つの条文を同時に適用する(重畳適用する)と解釈されていました。