民法改正講義案9(詐害行為取消1)

1 適正価格の売買でも取り消されてしまう場合あり

【第424条の2】
債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

(1)ひとこと解説

たとえ、適正な価格で売買したとしても、「詐害行為取消」を受けることがあります。

(2)そもそも「詐害行為取消」とは

Aさんが、Bさんに大金を貸したとします。(債権者=A、債務者=B)
Bさんはお金を借りたものの、返せなくなってしまいました。このままでは、自分が持っている甲土地を強制執行されてしまうと思ったBさんは、甲土地をCさんに譲渡した。もちろん、CはBの真意を知っていた。

この場合、「通謀虚偽表示無効を主張できるではないか」とお考えの方もいらっしゃるかも知れません。しかし、その立証は困難です。また、Bさんは、真意で甲土地をお金に換えたいと思っていることもありえます。「お金をもって夜逃げしたい」なんて思っていることもあります。この場合、甲土地の売買は真意で行ったことになるので、通謀虚偽表示ではないこともあります。

そこで、Aが、甲土地をBに戻す手段が別途必要となるのです。。その手段こそが、詐害行為取消です。詐害行為取消自体は、旧法にも新法にもあります。

【第424条】
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

債権者=A、債務者=B、受益者=Cとすれば、分かりやすい。

(3)詳細解説

不動産を現金に換えることは、財産の隠匿につながりやすいです。たとえば、1000万円の不動産を隠すことは至難の業です。なぜなら、登記があるからです(登記は誰でも見ることができます。)。しかし、現金を隠すことは比較的容易です。札束に換えて、どこか分かりづらいところに隠されると、強制執行は難しくなります。

そのため、適正価格の売買であっても、詐害行為取消を受けることがありうるのです。

(4)補足

破産法の否認の条文とよく似ています。破産法をご存じの方は、比較してみてください。

破産法第百六十一条 破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分(以下この条並びに第百六十八条第二項及び第三項において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。