民法改正講義案7(意思表示2)

2 重過失があれば取り消せない

【第九十五条】
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

(1)ひとこと解説(3項)

重過失(注意義務違反が重大であること)があれば、錯誤があっても取り消せません。

(2)詳細解説

前回、「錯誤があれば、取り消せるのが原則」と申し上げました。しかし、注意義務違反が重大である場合、要するに、あまりにも軽率な場合には、取り消せないのです。

前回を思い出してください。↓にフォントを小さくして転載します。

Aさんが「1億円で、甲土地を買いたい」という買い付け申込書を出したとき(表示)、
Aさんの内心も、「1億円払ってでも、甲土地を自分のものにしたい」と思っているはずです。
この思っている内容が「内心」です。
しかし、人間だれしも間違いがあります。「1億円」というところを「10億円」と書いてしまったり、
「甲土地」というところを「乙土地」と書いてしまうということは、稀にあります。
その稀なことが起きた場合どうするのかというのが「錯誤」のお話です。
「書き間違える方が悪いから、全て有効である」とならないのが、法律の面白いところです。

「1億円」と「1000万円」と書き間違えた場合、取り消せるかのように書きました。しかし、金額という重大な項目について、書き間違えをするというのは、あまりにも軽率と言われてしまうこともありましょう。その場合は、取り消せないということになります。つまり、本当は1000万円でなら買ってよいと思っていたとしても、1億円を出して買わねばならないということです。

しかし、「甲土地」を「乙土地」と間違えることは、必ずしも軽率ではないことがあります。たとえば、ちゃんと現場を見に行ったものの、看板が間違っていたり、地図を確認したところ境界線が間違っているということはありえます。この場合、軽率とはいいがたいので、取り消せるわけです。

(3)補足

仮に、Aさんに重過失があっても、Bさんにが、その錯誤を理解していたり、あまりにも軽率で理解していなかった場合には取り消せます。旧法では、Aさんが重過失であるだけで、Bさんがどうであろうと無効主張できませんでした。

たとえば、Aさんが、1米ドルと1香港ドルを取り違えて、Bさんにに対し、「甲土地を、1万香港ドルで売りたい」といったとします(1米ドル≒110円、1香港ドル≒14円)。その際、Bさんは、Aさんが1米ドルと1香港ドルを取り違えていることを知っていたとしましょう。この場合、Aさんは意思表示を取り消せることになります。つまり、甲土地を安く手放すことを回避できるのです。