民法改正講義案7(意思表示1)

 1 錯誤の効果は取消

  【第九十五条】
1意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

(1)ひとこと解説(1項1号について)

錯誤による意思表示は、取消となりました。旧法では、無効だったのです。

(2)錯誤とは

錯誤とは、教科書的に申し上げると「内心と表示が一致しないこと」を指します。

普通、皆様が、意思表示をするとき、内心と表示は一致しています。

Aさんが「1億円で、甲土地を買いたい」という買い付け申込書を出したとき(表示)、Aさんの内心も、「1億円払ってでも、甲土地を自分のものにしたい」と思っているはずです。この思っている内容が「内心」です。

しかし、人間だれしも間違いがあります。「1億円」というところを「10億円」と書いてしまったり、「甲土地」というところを「乙土地」と書いてしまうということは、稀にあります。その稀なことが起きた場合どうするのかというのが「錯誤」のお話です。「書き間違える方が悪いから、全て有効である」とならないのが、法律の面白いところです。

(3)詳細解説

錯誤があった場合は、原則として、取り消せます。つまり、契約書を書き間違った場合、原則として取り消せるのです。たとえば、Aさんが、Bさんに対し、「1億円で甲土地がほしい」という旨の買付申込書を提出し、Bさんが甲土地の売却に応じたとします。このとき、本当は、Aさんは乙土地がほしかったのに、誤って「甲土地」と書いてしまっていたとしましょう。この場合、Aさんは、買付申込書を取り消せるのが原則なのです。

(4)補足

くどいくらいに、「原則」と書いたことにお気づきでしょうか。そうです。原則があれば、例外もあります。次回以降、例外を扱いましょう。